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第18話 そういうお化け

 へらへらと笑うザックに、ミウェンと巡は驚いて声を上げた。  専ら気になるのは、バリヤは兵長の割にこんなに第三兵団を留守にしていて大丈夫なのかという事である。  巡がアルストリウルス国に召喚され、第三兵団に任命された日から、バリヤはその殆どの時間第三兵団を抜けている。   「今日はメグルの研究をしようと思います」  ザックがメグルをベッドに寝かせ、言い放った。   「俺の研究って……ていうかそれ、バリヤさん必要ですか?」  ザックが一人で行うであろう自分の研究に、ミウェンは勿論、バリヤも同行していた。  メグルの疑問になぜかバリヤでもザックでもなくミウェンが答える。   「メグル殿の安全を守るのがバリヤ様のお仕事ですから、当然のことです」 「じゃあこの怪しい研究とやらを止めてもらっていいですか?何されるのかわかんなくて怖いし」 「それとこれとは話が別でしょ。僕はメグルに傷一つ付けないよ?」 「そういうことらしい」 「それで納得しちゃうんですか!?ていうか今日って勇者召喚の前日でしょ!?もっと他にやることないんですか!?」  かくして巡の研究が行われることとなった。   「メグルの魔力について、疑問が残るんだよね。  僕らの魔力は他人の魔力に対して抗体を持って拒絶反応で撃退するようにできているんだ。  じゃあメグルの魔力は一体何なんだ?という話になる。  しかもメグルは元の世界では魔力なんか無かったって言う。  一体どこでメグルは魔力を身に着けたんだろうね?」    そこでふと思い出したので、取り敢えず心当たりのあることを述べてみる。 「1回目の世界では、俺は魔力がゼロだって言われてました」 「魔力がゼロ!?魔力がゼロでも生きていられたのかい?!」 「え、ええまぁ……」  嘘である。  1度目の異世界では魔力がなかったことで生きて行けず、召喚からすぐに巡は息を引き取った。  しかも死ぬときは息もできないまま意識が遠のいていって結構苦しかった覚えがある。    言いにくいのと、死ぬような研究をされては困るので内緒にしているだけである。 「2回目の世界では俺は女の子になっていて、聖女様って呼ばれてました」 「女の子に!?それはなぜだい!?」 「わかりません」 「聖女様ってのは一体何だい?」 「天候を操って人々に恵みを与えるような役割だったと思います。でも俺人違いで、聖女様じゃなかったんですよ」 「えっ……?」 「人違いだったけどもう召喚する術がないから俺で行こうってなって、そのまま聖女として過ごしてました」 「嘘つきじゃないか!」 「そりゃそうですけど、国がそう決めたんだからしょうがないでしょ!!」  うーんと唸りながらザックがペンの頭でポリポリと頭をかいた。   「この世界の常識だとね、どれだけ魔力が低くても生きていけるけど、魔力がゼロだとそれは死んでいるのと同じことなんだ。  もし魔力がゼロのまま生きていたら、それはそういうお化けだね」    ゾンビと言いたいのだろうか。  実際、1度目の異世界では魔力がゼロで死んだのだからザックの言っていることは他の世界でも通用することなのだろう。  では、今巡が持っている魔力はなんなのだろうか。   「君の話だと、魔力がゼロでも生きていけてたようだけど……、この世界の魔力のように他人の魔力に拒絶反応を起こさないところから見るに、僕は君の魔力は他の世界で付いた力だと思っているんだ。この世界の魔力じゃないから、拒絶反応を起こさない。でも君の元の世界では魔力は無かったって言うんだから、1度目か2度目の異世界に行ったときに魔力が溜まるようになったんだと思うよ」  それはそうだろう。    巡だって幼少期にかめはめ波を打つ練習を行ったこともあるが一度だってかめはめ波が出たことなんて無かったし、それこそ個人的な超能力ブームが来た時も魔法のような超能力が発動したことなど一度もなかった。    考えられるとすれば、1度目の世界で魔力が無くて死んだことをきっかけに死なないために魔力を貯めることを本能が覚えたという線である。    どの世界でも巡は死んでいるので、(女子の身体にも変わっていたし)身体自体が情報を引き継いでいる可能性は低い。  おそらく巡の遺体はそれぞれの世界に残ったままだろう。 「この世界の君は、元の世界の君と変わりないのかい?」 「変わらないですよ。魔力があること以外」 「そしたら2回目の異世界で魔力を身に着けたと考える方が無難だろうね」  ザックが何やら書類にザーッとメモを記していく。

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