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第21話 勇者のパーティ
4回目にして、バリヤの護身用の魔石とザックの魔道具が無ければ自分は完全にまた別の世界へ連れ去られていただろう。何もできなかった。
そして、自分を助けてくれた屈強な体躯のスライムのことを思い出す。
あの時は必死でそんなことを感じている間も無かったが、スライムだからといってプニプニしているわけではなく、魔法で変身しているせいでその身体はごつごつと硬かった。
あの強靭な力業がなければ足の一本や二本、異世界に飛ばされていたかもしれない。
力強いバリヤの抱擁を思い出してホッと心が満たされた。
「バリヤさんは……俺の命の恩人です」
「何故そんなことを。メグル殿をお守りするのがバリヤ様のお仕事なのですから、お気になさることありませんよ」
「で、でも……。俺、決めました。いつまでこの世界に居られるかわからないけど、この世界に居る限り、俺はバリヤさんの役に立ちたいです」
「まあ。なんて心の綺麗な方なんですか。メグル殿」
感動したようにミウェンが感嘆したが、巡は本当に命を助けられたと思っていた。
一度目の異世界はともかく、元の世界にも、一度目の世界にも、二度目の世界にも、召喚魔法陣が出現した時に巡を守る人物というのはいなかったのだ。
おそらく今回来た勇者というのも、魔界の瘴気の浄化を求められるばかりで誰も勇者のことを守ろうなどとは考えていないだろう。
巡は初めて人生の危機で、しかも異世界で人に助けられたのだ。
そして、バリヤはそれをして当然のことなのだという。
国王の命令なのだから当然と言えば当然のことだが、巡にとっては当たり前のことではなかった。
巡の心の中はバリヤのことでいっぱいになった。
2度目の異世界でも自分の世話をしてくれる侍女たちは沢山いたが、巡を取り巻くのは天候の危機とそのせいで飢えにあえぐ民たちだった。
今日のことがあって初めて巡は、人に恵まれたと思ったのだ。
「勇者様のパーティに呼ばれちゃったんだよね」
バリヤ、巡、ミウェンを集め、ザックは何ともないような態度で言った。
「僕の他には、吸血種の魔族の神官の子と騎士団の総監督である騎士団長がパーティに編成されたんだけど、瘴気の浄化に帯同することになったから、ちょっとだけ留守にするよ」
「そうなんですか」
瘴気の浄化には、この世界で一番の戦士となった勇者と、この世界で一番の騎士である騎士団長、この世界で一番の魔導士であるザック、この世界で一番の吸血種の神官の4人でパーティが組まれることになったらしい。
「うん。それでバリヤのことなんだけど。僕は勇者様召喚で魔力を結構使っちゃったんだけど、そうすると4分の3バリヤからとった分の魔力を魔石だけだと補充できないんだよね。あの時、メグルもどこかに召喚されそうになっててそれをバリヤが助けてたろ。バリヤはその分も魔力を消費してるから、わかりやすく言うと彼は今、弱ってる状態なんだ」
「見てたんですか」
勇者召喚の歓喜に埋もれて、巡の危機など殆ど知れ渡っていないと思っていた。
ザックは更に続けた。
「だからメグルの魔力を少しバリヤに分けてあげてほしいんだよね。2分の1くらい」
「半分!?それは少しとは言いませんが」
ミウェンが驚いたように声を上げた。
「うん、でも昨日のことがあってさ、よく考えたらメグルって魔力を持ってても殆ど使えないから宝の持ち腐れなんだよね。メグルが自分で使えそうな分は置いておいて、他の魔力はバリヤに蓄積した方がメグルの身を守れると思ったんだよ」
「それはそうですね……」
巡は同意した。
「今は魔力を殆ど使っちゃったとはいえ、時間が経てば僕の魔力も元に戻ってしまうし、バリヤみたいに魔力を蓄積できる器を探すのは骨が折れるから今メグルが何かの事故で死んじゃったりして居なくなられると僕としては非常に困るんだよね。だからメグルを守るためにも、メグルの魔力をバリヤに分けてあげてほしいんだ」
「わかりました」
巡としても、命の危機が今までで一番低いこの世界に、若干愛着が湧いてきていた。
一度目の異世界でも二度目の異世界でも誰かのせいで自分が死んだわけではなかったが、誰かに守ってもらえる世界というのはこの世界の、アルストリウルス国だけだったからだ。
「それでさ、僕が浄化の遠征に行っている間、メグルはバリヤに魔法を教えてもらいなよ。そしたら僕が返ってきて、魔力が回復した後はメグルは自分の魔力と僕の魔力両方を使って生きることができるだろ」
「確かに、そうですね」
「まあ、なにはともあれ、君の魔力をバリヤに半分渡してボディガードとして強化してからだね、全ては」
「一番簡単な方法は、俺がメグルの魔力を喰えばいい」
「いや、スライムに溺れるのはちょっと……」
スライムの中に入って窒息しかけていたザックを思い出して、遠慮させていただこうと辞退する巡。
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