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第33話 アノマ・コペン

「騎士団長のアノマ・コペンだ。久方ぶりだな、バリヤ・オノルタ」  騎士団長のアノマが片手をバリヤに差し出した。  バリヤはその手を握り、握手しつつも苦々し気な顔をした。 「正直に言うと、よもや降格されるとしても第一兵団か第二兵団だと思っていたよ。私の家系はギリギリ貴族なもんでね。  たしかに魔力は第三兵団と変わりないが、真剣を使わない訓練では他の奴らに負けない剣術で騎士団長の座をもぎ取ったんだ。  君と戦う羽目になるとは思わなかった」    アノマは30代後半の騎士だ。  初老というにはまだ若く、剣の腕は騎士団で一番とのことらしかった。    勇者が騎士団長になるにあたって、そのまま降格させたのでは外聞が悪いので、該当する兵長とアノマを戦わせ、勝った方を兵長とするというのが国の意向だそうだ。  それがギリギリ貴族出身のアノマでは第二兵団に降格するかと思いきや、第三兵団に所属することになったため、バリヤと戦うことになったということだった。   「君には悪いが、私もこの年にして降格させられるなんて思ってもいなかった。本気で行かせてもらうよ」 「わかりました」  バリヤが兵長になれたのは、ザックの魔力があったからだ。  バリヤはスライムの上にまだ7歳だ。剣術の駆け引きなどを考えると圧倒的に分が悪かった。  しかし、ザックの魔力を保有するバリヤは第一兵団の騎士たちとも違わないくらいの魔力を保有している。  今は勇者召喚でザックに魔力を返したばかりで全快ではないが、巡の魔力も保有していることもあって魔力だけなら騎士団長と戦っても互角かそれ以上の実力になるはずだ。   「僕のスライムをいじめないでおくれよ、アノマさん」 「それはこちらのセリフだよ。まったくどうしてこんなことになったのか」  ザックがからかうように声をかけ、アノマはそれに答えた。    騎士団長と対戦する羽目になったバリヤも運が悪いが、アノマも相当参っているようだった。   「いくら勇者様が瘴気を浄化してくれたとはいえ、第三兵団は国の第一線で戦う危険な部隊だ。私みたいな年寄りが所属する部隊ではない。上の私が気に入らない誰かの策略によるものだろう。巻き込んですまないね」 「まるでアノマさんが勝つかのような口ぶりだけれど、バリヤが勝つ可能性だってあるんだからね」 「わかっているよ。ただこの老いぼれが現実を受け入れられていないだけだ。気にしないでくれ」  アノマはハアと深くため息をついた。

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