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第32話 祈り
「召喚魔法を重ね掛けするのも、リスクが高いよね。
なんとかして召喚魔法を跳ね返す方法はないものかな?
と、いうか……メグルはなんでそんなに色んな世界から呼ばれがちなのか、心当たりはないのかい?」
「心当たり……と申しましても……」
元の世界には魔法なんてなく、一度目の異世界召喚からラッシュのように召喚され続けているだけで、それまでは平々凡々普通の人生を歩んできたのだ。
一度目の異世界召喚から何かが狂っていったのだとしか思えなかった。
そしてそれがなぜなのかは、わからなかった。
「例えば……名前、とかですかね」
「名前??」
「はい。
俺の名前は初崎巡……苗字は親から受け継いだものですが、巡という名前には、巡り巡って良い縁に恵まれますように、っていう願いが込められているんです。
祈りとでも、言えばいいのかな……」
「巡り巡って、とは?」
翻訳が完ぺきではないのか、ザックが尋ねる。
「色んな所を旅して、とか、色んな事を経て、とか……そういう感じの……」
「なるほど、祈りかぁ」
「祈りは、私たち神官の日課でもありますね。神への祈り。天への祈り。騎士や魔導士たちへの無事を祈る祈り。魔法ではないですが、魔法のようなものです」
ミウェンが補足した。
これはザックには言えないが、もし一度目の異世界で、魔力が無かったことで死に、それを発端に魔力が巡に宿ったのだとしたら、親からの名付けの祈りが急に機能しだして色んな世界に飛び交うことになったのも納得がいく。
そして出会った頃ザックが言っていたように、巡の世界が他の世界より上位にあり、祈りや願いの優先順位が高い世界に住んでいたのだとしたら、他の世界の召喚魔法でより優先順位の高い巡が召喚される羽目になるということだろう。
「でも、ザックさんが言っていたような、優先順位の高い世界に今は居るわけではないので……」
「そっか。そこまで心配でも無いってことだね。でもまだ怖い?」
「はい」
「まず、この世界の優先順位がメグルの世界より下位なのは間違いないよ。でも、もっと下位の世界からの召喚には呼ばれかねないってことだね。
……でも、メグルの名前の由来を僕たちは知らなかったわけだけど、知ってしまったらまた祈りの力が強まってしまうんじゃないかなぁ」
「ええっ!!そんな!!ついこの間召喚されかけた所なのに!!困ります!!」
「って言われてもねぇ……。知っちゃったものは仕方ないし。
召喚を止めるか、召喚から逃げる方法を考えた方が良いね」
「た、たしかに……」
唸る巡にバリヤが言った。
「心配ない、俺がいる」
「うーん、まぁそうなんだけどさ。メグル、今日からもずっとバリヤの部屋に泊まらせてもらいなよ」
「えっ」
「そうしろ。離れていては守れない」
「いくら召喚魔法陣を持っていても、誰かに取り上げられたら終わりだからね」
「そ、そうですよね」
巡は昨日、バリヤに抱きしめられて眠ったことを思い出した。
結局あれから、バリヤは何のいたずらもすることなく朝起きるまで添い寝をしていてくれた。
睡眠の概念がないスライムにはただじっとしているだけの何時間は暇で暇で仕様がなかったであろうが、巡のためにずっと傍に居てくれたのだ。
人間の知識や情緒を吸収したこのスライムは、存外優しい。
「そういえば、大変なことを思い出したよ」
「どうされましたか、ザック様」
「勇者がこの国の騎士団長に就任するんだって。その代わり、今の騎士団長がバリヤと第三兵団兵長の座を奪い合うことになるらしい」
「なんだそれは。俺は聞いていない」
「だってこれから発表されることだからね」
「6年も兵長を務めたのに、今更兵長の座を剥奪なんてされてたまるか」
「そりゃそうだよね。う~ん……会いに行ってみる?」
「何にだ」
「騎士団長」
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