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第35話 嫌じゃない

 確かに前回、魔力の受け渡しをしたときは巡は快感を感じるようなことは大してされていなかった。 「いいんじゃない?メグルから魔力を貰う時は人型なんでしょ」  他人事のように賛成するザックに、ミウェンが顔を赤くして「わ、私もそれが良いと思いますよ」などと雑に賛成する。   「い、いや俺は、大丈夫です」 「大丈夫じゃないのは君じゃなくてバリヤだよ。この間聞いたよね?一人で気持ちよくなるのは悲しいってさ。バリヤは一人じゃ嫌なんでしょ」 「スライムにそんな感情あるんですか!?」 「俺は自我のあるスライムだ。そしてザックの言ったとおりだ」  バリヤは巡の右手を持ち上げて、手の甲にキスをした。   「魔力を貰う礼に、とびきり気持ちよくしてやる」  ヒュッと喉が鳴る。 「そ、そんな……」 「メグルは、嫌か」 「い、嫌じゃ……ないですけど」 「けど?」  聞き返すザックに巡は懸命に言い返す。   「俺、前も言いましたよね。二人でそういうことをするなら、気持ちが伴ってないと嫌だって。俺のことを好きになったら、してくださいって。バリヤさんは別に俺のこと、好きじゃないでしょう。  それに、魔力を受け入れるのは俺かバリヤさんじゃなきゃ駄目かもしれないけど、魔力をあげるなら誰でも良いんですよね。だったら他の人に魔力をもらえばいいんじゃないですか」   「好きとはどういう感情だ」  バリヤが堂々と聞いた。   「……馬鹿野郎ですか!!」  大きな声を吐き出した巡に、バリヤは更に続けた。 「それに俺は、メグルが良い」 「は」 「魔力を貰うのなら、俺はメグルが良い」 「……!!」  このスライムは一体何を言っているのかわかっているのだろうか。   「そんなの……ひな鳥が初めて見たものを親と思うのと一緒ですよ。  バリヤさんは俺から魔力を受け取った時に初めて快楽を知って、だから俺じゃないと駄目だと思ってるだけです」    言っていて悲しくなってくるが、そうとしか思えなかった。  バリヤが巡に好意を示しだしたのは、はっきり言って巡から魔力を受け取って分裂したあの日のあの時からだったからだ。   「どうすれば信じてもらえる」  真剣な顔でバリヤが巡の顔を覗き込んだ。   「勝ちなよ」  ザックが言った。   「メグルからもらった魔力で、絶対に勝ちなよ。  メグルの魔力があればバリヤは強くなれるんだって、百人力になるんだって、証明しなよ」 「ああ。……メグル。魔力を、俺にくれ。絶対に勝ってみせる」 「……」 「メグルは、どうなのさ」 「メグル殿……」  ザックとミウェンが心配そうに巡を見た。   「わかりました。  その代わり……今日はザックさんの部屋じゃなくて、バリヤさんの部屋が良いです。  いつも寝てるベッドで……。」   「わかった。肌の触れ合う面積を増やして、首を噛む。  痕が残るが我慢しろ」 「はい」 「安心しろ。メグルが嫌がることは……しない」  バリヤが巡の腕を引き、腕の中へ抱きとめた。

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