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30 初夜1※R-18

 結婚式が終わって、僕はマクソン家の屋敷へと帰った。  おじいさまは、何度も、僕の手を握って「ありがとう」とお礼を言った。  ジェラルドはその出自のために、血統主義の貴族社会での立ち位置はやや不安定だ。そんな中、僕との結婚によって、ライブラ侯爵――リチャードお兄さまの援助を得られるようになった。うちは名門貴族の一角だし、お兄さまは若手貴族の中でも、結構やり手なのだ。  それもあるんだろうけど、おじいさまは、本当に嬉しそうだ。きっと純粋に、孫の結婚を祝っている。だから「ありがとう」は、僕の言葉でもあった。  お義父さまとお義母さまも、僕を歓迎してくれた。ジェラルドの弟妹たちも、口々に祝福してくれる。  僕たちはてんてこまいになりながら、なんとか一日を終えた。これが終われば、しばらく休暇に入る。新婚旅行が待っていた。  そして、湯浴みをして、同じ寝室へと入った。  僕がベッドの上に寝転んでいると、ジェラルドが入ってくる。僕は身体を起こして、眼鏡をかけ直した。 「おかえり」  ジェラルドは、照れ臭そうに笑う。僕の鼻の頭にキスして、ベッドに座った。 「ただいま。エリス」  じん、と胸が痺れる。嬉しくて、どうにかなってしまいそうだ。  うずうずして、たまらない。眼鏡を外した。裸眼でも顔がよく見えるくらい近づいて、抱きしめる。 「ジェラルド」  名前を呼んで、唇を近づけた。ジェラルドは僕の腰を引き寄せて、後頭部を支えてくれる。僕はすっかり安心して、彼とのキスにうっとり目を閉じた。  大きな手が、寝間着越しに僕を撫でる。熱い掌が頬を掠めて、うなじへと伸びた。  ジェラルドの、真剣な瞳と目が合う。 「こういうことをする。いいか?」  全部察した。僕は思い切って、ジェラルドの膝の上に乗り上げる。  驚く顔のジェラルドの額に、唇を落とした。甘くてスパイシーな香りが、ふわりと香った。 「うん。しよ。……ずっと、したかった」  自分で、シャツの合わせのボタンを外していく。ためらいなく脱ぎ去ると、ジェラルドが僕の腕を引いた。  身体がひっくり返って、ベッドへと横たわる。緊張した顔のジェラルドが、僕へと覆いかぶさった。 「意味、分かって言ってる、よな」  ジェラルドの手が、僕の素肌へ触れる。くすぐったくて、温かくて、ちょっと恥ずかしい。だけど何より、嬉しかった。  僕はその手を取って、自分のおへその上に置いた。全身がどくどく脈打って、体温が上がっていく。 「うん。ここを……触って、ジェラルド……」  一生懸命目を凝らして、ジェラルドを見上げた。彼は長い溜息をつく。  何か、失敗してしまったんだろうか。ちょっと身体を丸めようとすると、腰の上に、ずんと重さが加わった。  僕の上に、ジェラルドが乗ったんだ。彼は身体を屈めて、僕を見ているみたいだ。どきどきする。 「いやだったら、言え」  ぶっきらぼうに言って、ジェラルドの手が、僕の鎖骨を撫でた。ひん、と変な鼻声が漏れる。 「くすぐったい」  くすくす笑う僕を置いて、ジェラルドはあちこちを触る。首筋、肩、脇、胸の横。それだけでたまらない気持ちになって、僕はたくさん変な声を出した。身体が熱い。  そして胸の……乳首のあたりで、ぴたりと指が止まった。僕は息をのんで、胸をちょっとだけ張った。 「……吸っていいよ」  いつだったかも、こんなことを言った気がする。ジェラルドは一瞬動きを止めた後、顔を胸へと近づけた。すん、とにおいを嗅いで、鼻筋と頬が、ぺっとり胸につく。 「エリスのにおいだ」  ぽつりと呟く彼に、頬が熱くなった。どんなにおいなんだ、それは。 「どういうにおい……?」  それだけ気になって尋ねると、ジェラルドは「ん」とくぐもった声で返事をした。 「いいにおいだ。エリス……」  ちろり、と濡れた生温かいものが、僕の胸の真ん中を舐める。ジェラルドの舌だ。  あう、とか、えっ、とか、変な声がたくさん漏れる。 「じぇ、じぇらるど、くすぐったい」  甘えた声が出てしまった。身体をくねらせると、ジェラルドは「仕返しだ」と笑う。 「学生時代、お前には散々、舐められたからな」  そういえば、そんなこともした。あの日々のツケを、今晩払わされるらしい。  本音を言えば、ちょっと……だいぶ、嬉しい。ジェラルドに求められている感じがする。それに、ジェラルドに身体を舐められると、えっちな気分になって……。  たったこれだけの愛撫で、ちょっと汗ばむくらい、身体が熱くなった。ジェラルドの甘くてスパイシーな香りも、だんだん強くなってくる。  この香りも、番になれば、僕しか感じられないものになる。そう思うと、はやく次のヒートが来てほしい。今日はヒートじゃないから、番になれなくて、それだけが残念だ。 「じぇらるど……もっと……」  僕は身体を捻って、ジェラルドに抱き着いた。というか、なんでこいつは服を着たままなんだ。 「はだかになってよ。それで、僕も、脱がせて」  ジェラルドは、ぐう、とうなった。そして、自分の服を、手早く脱ぎ始める。  すぐに丸裸になって、僕の中途半端に残った、下半身の衣服へ手をかけた。  あっという間に、お互い全裸になる。その身体つきが見たくて、でも見えなくて、手を伸ばした。ぺたぺたと触れて、その感触と温かさを楽しむ。筋肉質な弾力があって、僕の身体と全然違う。ぽうっと彼を見上げた。 「むきむきだ」 「ん」  ぶっきらぼうに言って、ジェラルドは、僕にキスをした。裸になってキスしていると思うと、なんだか妙に緊張する。だけど思い切って、口を開けた。 「べろちゅー、しよ……」  ずっと禁止されてきたやつだ。こそこそ隠れて何度かしてきたけど、あの気持ちよさといったらない。ジェラルドは低く笑って、いいぞ、と囁く。 「もう、好きな時に、好きなだけできるな」  ちゅう、と唇が合わさった。僕が唇を食んでも、逃げられない。うれしくなって舌を出すと、ジェラルドが控えめに吸ってくれた。  そのまま舌を差し出して、絡め合う。水音が頭の中で響いて、どんどんえっちな気分が深まった。口の中が痺れるみたいに気持ちいい。もっと気持ちよくなりたくて、必死で大きな背中へ抱き着いた。  だんだん、身体に力が入らなくなってくる。脚がぴくぴく震えて、腰が揺れる。  ジェラルドのにおいを胸いっぱいに吸い込むと、思考がとろけて、どんどんえっちになる。 「ちゅー……」 「はは。甘えん坊だ」  ジェラルドに撫でられて、抱きしめられて、夢みたい。ジェラルドは熱っぽい掌で、僕の骨盤を撫でた。 「エリス。ここの奥、触っていいか?」 「うん。なか、さわって」  よいしょ、と腰を上げる。ジェラルドは僕の膝の間に入って、脚の付け根を指でなぞった。薄い皮膚は、その感触を、まざまざと知らせる。 「んぅ」  僕は全面降伏する犬みたいに、お腹を見せた。ジェラルドは、僕の股間を凝視している。  なんとなく、僕も視線をそちらへおろした。ぼやけてよく見えないけど、恥ずかしい。 「かわいい」  今、暗に、僕のやつが小さいって言った? 一瞬むっとしたけど、すぐにジェラルドがそこをいじりはじめて、そんな文句は忘れた。  僕のものはすっかり勃起して、ちょっと腰を持ち上げられると、お腹へぴたぴた先端が当たる。濡れて、ぬるっとしてすらいた。それくらい、興奮している。

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