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監視型⑦
言えば──ぽかん、と口を開け。そうして、ゆっくりと口もとに震える手を運び──
「ふ、ははは! 何を言うかと思ったら……くく、パクリじゃんそれ!!」
盛大に笑い声をあげた。じわじわと顔に熱が集まる。……なんだ、この失礼な人は!!
「あー、はは! わあ、なんかすっごい無茶させちゃったな」
「だから無理っつったでしょ! ……ああもう、恥ず」
最悪だ。恥だけかかされた。なけなしの勇気だとか、時間だとか、もろもろを返して欲しい。
「オレに見せないキミの顔とか、ひとりでいるときの顔とか。そういうのが見たいのもあるから、完璧には論破できてないよね──まあ、オレの考えたやつだけども」
「先生に言いますよ」
「わー待ってって! けどね!」
席から立ち上がりかけたのを、肩に手を置かれて慌てて制される。怪訝になる目付きでじっと彼を見れば、いやにきらきらとした笑顔を俺に向けた。
「でも、惚れ直した。わざわざ関わりにいく姿勢を見せるあたり、やっぱりキミ変わってる。最高」
「……褒めてます?」
「ええ? もちろん。変わってるってオレの中じゃ最大級の褒め言葉なんだけどなあ」
不思議そうな表情で、僅かに首を傾げる。どこか満足気な雰囲気を漂わせ、また口を開いた。
「カメラの場所は教える。ていうか取るから」
俺のカバンに着いていたぬいぐるみをなにやらいじると──黒い、小さな機械を取り出した。こちらを向くのは、無機質なレンズ。……それに仕掛けてあったのか。ぞっとした。
「理想の子に、好きなキャラのセリフを言ってもらえたし。オタクとしては感無量だよ」
手のひらで弄び、とても場に似つかわしくない、喜色の滲んだ笑顔でそう言う。
「他の子につけたやつも停止するし。誰のことも監視しないよ、精一杯キミが考えてくれたんだから」
なんだかよくわからないが──あんな拙い演技でも、満足してはもらえたらしい。監視カメラも撤去して貰えたし、彼の目を気にして生活することはないだろう。重いため息がひとつこぼれた。
そういえば。
「次は誰が病みそうとかわからないんですか」
「ん? もう多分無理だね。キミに惚れて、全員敵に見えちゃってるから」
だめか。彼の観察眼が確かなものであるならば、次に降りかかる危機へなにかしらの対策をしておきたかったのだが。何も無い、ということであってほしい。切実に。ヤンデレはもう懲り懲りだ。画面の向こうで見るくらいがちょうどいい。
とにもかくにも──もう盗撮は二度としない。他の人にもしないと誓ってくれたので、ひとまず安心だろう。今回も、なんとか乗りきった。……乗り切れてしまったのが、やんぱらの主人公に近いということを証拠づけてしまうようで、少し複雑だが。
そんなこともあり、勉強をする気分にも慣れず。先輩でありながら、俺は彼に軽口を叩き。まるで“普通”の友達のように、ともに帰ったのだった。
***
「もう盗撮はしないよ。……盗撮は、ね」
『うわーーーっやば!! 課題やるの忘れてた!!』
「っはは、ほんと騒々しいやつ。……ああ、本当に……」
かわいい。
筆箱の中。初対面時に忍ばせた盗聴器から聞こえる騒がしい声に、青年は口角を歪ませた。
「──そうだな。ひとつくらいヤンデレのストックはあるから、あの子の周りの子はそれで最後かな……」
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