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第6話

6 「カヲルッ!」  懲りずにまた勢いよく扉を開けてしまい、驚く女性薬剤師と目が合ってしまう。 「小鳥遊さんなら、駐車場で待機している患者さんに、薬を持っていっています。たぶん、すぐ戻ると思いますよ」 「待たせてもらっても?」 「ええ、どうぞ」  とはいえ、手持無沙汰の俺は、そう広くない薬局内をうろうろしてまわる。よく見ると、子どもが喜びそうなアニメキャラの折り紙がたくさん飾られている。その一つを手に取ってまじまじと見ていると、それに気づいた女性薬剤師が話しかけてくれる。 「それ、すごいでしょ。全部小鳥遊さんの手作りですよ」 「えっ!?」 「え?」  俺はとんでもなく驚いていたのだろう。女性薬剤師が目を丸くしてこちらを見る。 「カヲルは、子どもが好きなんですか?」 「ええ。だと思いますよ。ここに勤めてからずっと、誰よりも子どもの相手してますし」 「──ッツ」  知らなかった。もしかして彼も本当は── 「あ、小鳥遊さん」  とそこへ、戻ってきたカヲルと目が合う。 「圭悟くん? どうして──」 「もう一度、ちゃんと話がしたい」 「……うん。そこの公園で、話そっか」 ***  燃えるような夕日が、山の向こうに沈もうとしている。カヲルの後に続いていると、ベンチが見えてきたころにふいに彼が立ち止まる。 「話って何?」 「ッツ……」  カヲルの声はひどく刺々しく、まるでやすりのように俺の心を削った。  今さらやり直したいなんて、虫が良すぎると言われたようで、俺は言葉に詰まってしまった。 「そんなに迷惑だった? 服なら、ちゃんと返すからっ」 「? ちょっと待て。なんの話だ? 俺は別に──」  困惑する俺に構わず、カヲルが目に涙をたくさんため、勢いよく振り返る。 「みっともないって言いたいんだろっ! 俺だって、好きで、あんな恥ずかしい真似したいわけじゃないっ! 俺が、オメガだから──」  そこまで言って、苦しそうに眉を寄せる。 「醜い、オメガ、だから──っ」 「──……っ!」  ショックだった。やはり、カヲルのためを思ってついた嘘が、彼を追い詰めてしまっていたのだ。 「……なんで、キミが苦しそうな顔するの?」 「ごめんっ……カヲル……傷つけてごめん……不安にさせてごめんっ……別れたいなんて、本心じゃないっ……もう一度、やり直させてくれないか?」  必死に声を絞り出す俺に、カヲルがぽかんと口をあける。 「……オメガのボクに、幻滅したんじゃないの? だから、傷つけたくないなんて嘘ついて」 「嘘じゃない! 今だって、抱きたくてたまらない」  俺は一歩彼に近づく。だが、彼は振り払うように後ずさりする。 「……同じことだよっ! ボクがどれだけ不安だったかわかる!? ボクから逃げたキミにはもう関係ないっ!」  そう言って俺に背中を向けてしまう。俺はその背中を、そっと抱きしめる。 「カヲルの言う通り、俺はずっと逃げてた。でも、もう逃げない。俺はお前を抱きたいし、お前との子どもも欲しい!」 「っつ、ぅっ……そだっ……」 「嘘じゃない」 「でもっ……っ……」  震える身体をなだめるように、やさしく撫でる。 「カヲル。さっきお前を待っている間、薬局の折り紙を見てた。お前が作ったんだってな」  カヲルが、こくりと頷く。 「子ども、本当に嫌いなのか?」  一瞬間をおいて、今度は、左右に首をふる。それから大きく深呼吸をして、俺の腕をぎゅっと握る。 「っ……圭悟くん……ボクも本当は、キミと家庭を築きたいっ……」 「うん……」 「でもっ、怖くて……愛せるかどうか、自信がない……っ……」 「愛せるさ。俺とお前の子どもだ。世界一可愛いに決まってる」  そう言って強く抱きしめると、彼が身体を反転させ、俺の胸に飛び込んでくれる。 「ずっと、その言葉が聞きたかったっ……」 「遅くなってごめん。好きだよ。カヲル。もう、迷わない」 「うん、ボクも好き、大好きだよっ」  ようやく聞けたその言葉に、俺は胸が熱くなる。ヒートの時とはまた違う。じんわりと心に沁みていくようだ。 「帰ろうか」 「うん。帰ろう、一緒に──」    ***  すぐに二人きりになりたかった俺たちは、病院から近い、カヲルの家に直行する。 「んっ……はっ……」  玄関を開けるなり、どちらからともなく唇を重ねて、激しく求めあう。絡め合う舌は熱く、溶けてなくなってしまいそうなほど濡れている。 「カヲル、お前さえよければ、今から──」 「? ん、するってことだよね? もちろん」 「そうじゃなくて──」  俺はカヲルのへそのあたりを手のひらでゆっくりと撫でる。 「子ども、作らないか?」  しっとりと彼の耳に吹き込むと、一瞬遅れて、カヲルが上擦った声を出す。 「へ!? い、今からっ!?」 「お前の気が変わらないうちにと思って。もちろん、責任は取る。結婚しよう」  ハッキリと告げると、今度こそ首から上まで真っ赤に染まる。 「ちょっ……い、きなりいろいろ、急すぎない?」 「悪いが、〝イエス〟以外、聞くつもりはない」  戸惑う彼を強引に担いで、寝室の扉をあける。 「あ」 「え」  ベッドには、真ん中を囲むように俺の服が散らばっていた。 「ちょ、あの、これは、そのっ……」  しどろもどろで口をぱくぱくさせているカヲルを、俺はベッドに押し倒す。 「俺の服に囲まれて、何してたんだ?」  シャツのボタンを外しながら、首筋に舌を這わせる。もう、待てそうにない。 「な、何もしてないよっ! 圭悟くんのえっちっ!」 「嘘だな。見られて動揺してた」 「ンッ!」  露になった胸元に手のひらを滑らせると、しっとりと吸いついてくる。 「ぁっ、ほ、ほんとに、つくるの? その……赤ちゃん……」  自分で言って赤くなる彼が可愛くて仕方ない。 「嫌か?」 「嫌じゃないけどっ……け、圭悟くん、こんなに強引だったっけ?」  俺は自分のシャツをバサリと脱ぎながら答える。 「俺はもうアルファの性に逆らわないことにした。お前は? 俺が欲しくないのか?」  そう言って今度はおへそのあたりにキスを落とす。ゴクリと、カヲルの喉がなる。 「っつ……欲しいよっ……ずっと、キミが欲しくてたまらないっ!」 「カヲルッ!」  そこからはもう無我夢中だった。服を脱がし合い、まるで競い合うようにお互いの身体に痕を残していく。 「んっ、ぁっ、もう、いいよ、きて」 「カヲル……」  俺は猛り切った肉棒を彼の秘部に押し当てる。 「ぁあっ」  熱くほぐれたそこは、ゆっくりと俺を呑み込んで締め付ける。 「す、ごい、けーごくんの、あつくて、かたくて、どくどくいってて、すごく、やらしいっ」  そう言って結合部を撫でてくるからたまらない。 「煽るな」 「んぁんっ♡!」  気づいたらオメガの甘い香りに脳がドロドロに溶かされてしまっていた。目の前の彼に、俺の精液を注ぎ込みたくてたまらない。彼もまた、俺のが欲しくてたまらないのか、激しく腰を動かしてくる。 「はぁっ、カヲルっ、すごいっ、もう」  ぎゅうぎゅうに締め付けられる度、先端から精液が溢れ、彼の中をぐちょぐちょに汚していくのがわかる。  もう全部、搾り取られてしまいそうだ──。 「ぁっ! けぇごくんっ、できちゃうっ♡、あかちゃん、できちゃぅううっ♡♡♡!」 「孕ませようとしてるんだっ!」  溢れる水音が、より下品な音を響かせ始める。自分の中に、こんな手に負えない情欲があるなんて、知らなかった。そして、それを受け止めてくれる相手がいることが、こんなに幸せで、満たされるなんて──俺は無我夢中で腰をうちつける。 「ぁあっ、おっきぃっ♡、おっきくなってきてるっあんっ♡、すごい♡、なかっ♡、だしてっ♡」 「カヲルっ!」  目の前の白いうなじを、舌でねっとりと味わう。 「カヲル、だめだ、もう、噛みたいッ!」  その言葉にカヲルの中が激しくうねり、俺に抱き着いてくる。 「いいよ♡! 噛んで♡ 出すとき、噛んで♡ けぇごく──っ!」  ──ッツ!  噛むのも、イクのも、俺が出すのもすべてが同時で、ソレは信じられないほどの快感だった──。    *** 「もうこの一回で、本当にできた気がする」  どこかあきれながら、カヲルがそう言ってお腹を撫でる。その手に、俺も自分の手を重ねる。 「女の子だったら、ピーで、男の子だったらピーと名付けないか?」 「ぶはっ、絶対ダメッ! 本気で怒るよ?」 「じゃあ、一緒に考えよう」 「うん……」  かるくキスを交わして、俺たちはまた、抱き合って眠った。    完

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