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【1話:今は、ただのクラスメイトなαとΩ】

朝倉玲臣(あさくられおん)は学内にいるアルファの中でも頭一つ抜けた存在だ。 男女以外の“第二の性”を総称してバースと呼ぶ。そのバースの中でも、アルファは特に優秀さやカリスマ性を備えていると言われる性だ。 財閥系の名家「朝倉家」の跡取り息子。将来を約束されているエリート中のエリートであり、成績優秀かつ運動能力も高い、いわゆるオールSランク。 各学年に2~3人のアルファがこの学校に在籍しているが、2年にはレオンのみなのも目立つ理由のひとつかもしれない。背も高く、体躯もしっかりとしていて顔も整っている。 そうしたステータスに惹かれる生徒たちが日々取り囲んでいるが、本人はさほど気にしていないようだった。 取り囲んでいるのは、人口比が一番多いベータと呼ばれるバースの者たちがほとんどだ。平凡や大多数などと揶揄されることもある。 取り巻きの何人かを見回しながら、レオンは思った。 レオン (この中には、俺の番はいないな) 静かに息を吸ってからそう思う。かすかにオメガの甘いフェロモンが香るが、惹かれない。それにどこかホッとしてしまう自分がいた。 番(つがい)とは、互いに惹かれ合うフェロモンを持つ相手のことだ。世界のどこかにいる、一人の相手。バースをもつアルファとオメガにとって、番と出会うことは、ある種の運命と言ってもいい。授業や両親などから、フェロモンによってのみ感じられる相手が存在すると聞かされていた。 望月陽翔(もちづきはると)は、レオンを囲む人垣をぼんやりと眺めながら、隣に座る友人に話しかけるでもなく呟いた。 ハルト …鳥かごかよ 友人の佐藤が「何か言った?」と聞いてきたが「別に」と答える。 ハルトはオメガだ。世間ではまだまだ、オメガはアルファに選ばれるのが幸せである、という価値観が抜けない。自分の人生くらい自分で選ばせてほしいと、自分がオメガだと分かった日から思い続けている。 だから、日頃からフェロモン抑制剤を常用し、できるだけオメガとして扱われることを避けていた。アルファにも不必要には近づかない。もちろん、レオンにも。世の中には、オメガでもアルファを選ばない人たちだっている。 そんな事を考えつつ授業の用意をする。ふと、今日はバイトのシフト入ってたっけ?とスマホを確認した。カレンダーアプリには「バイト:18時」の文字。 ハルト (あぶねぇ、見といてよかった) 胸をなでおろして教科書とノートを開いておく。勉強は人並みにこなすようにしていた。卒業したら働いて、家計を助けたい。今は、数ヶ月おきに来るヒートで思うように稼げてはいないけど。 授業が始まるチャイムがなり、レオンを囲っていた柵もそれぞれの席に戻っていった。

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