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第1話

帰宅途中の最寄り駅を出ると雨が降っていた。 パラパラ降っていただけなので広瀬は夜空を見上げ、あまり雲も厚そうではない、大丈夫と判断しそのまま歩き出した。 住宅街に入るとしばらくコンビニもない。そして、なんとかの法則のようにコンビニが遠くなった途端に雨が強く降りだした。 広瀬は走って家路を急いだ。少しくらい濡れるのは仕方がないが、このままだと土砂降りになりそうだ。 「おーい、お兄さん」すぐ後ろから声をかけられた。年配の男性の声だ。 思わず立ち止まって振り返ってしまった。 道沿いの家からニット帽をかぶって黒い傘をさしている男性がこちらに手を振っている。大き目の青い傘を片手に持っていた。背が低いずんぐりした男性だ。気のよさそうな感じだ。 「傘、貸してやるよ」と言われ、青い傘を差し出された。 広瀬は、ためらったが、もう一度言われて戻った。 「ほら」と男性と青い傘を渡される。「そのままじゃ濡れるだろ。余ってるんだ。もってきなよ」 礼を言ってうけとった。傘をひろげると、大きな文字で『花沢ふとん店』と印刷してあった。 男性のさす傘のむこうにある家には、確かに『花沢ふとん店』の看板が地味にかかっている。今まで気づかなかったのだがこの家は布団屋さんだったのだ。 「すみません」と広瀬は頭をさげた。「今度、返しに来ます」 「いいよ、いいよ、いつでも」と男性は言った。「夜は店閉めちゃうから、そのシャッターの横のベルならして」と示される。白いボタンだけのドアベルがついていた。 広瀬は再度礼をいい、頭をさげた。男性は手をふって店に入っていった。

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