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第23話

「4回……」  ミツの口から発せられた回数に目の前が暗くなるのを感じる。  ミツ本人から確認はしていた。  でも、改めて聞いた回数に胸が締め付けられたように痛む。  俺がミツと離れていたのは3ヶ月程度だ。  通常の発情期(ヒート)ならば、1年間で起こるはずの発情期が短期間できたことになる。  小林もそのことがわかっているのか、ギリっと奥歯を噛み締め、何かを抑え込んでいるような雰囲気だった。 「4、回くらい……2回目までははっきり覚えているんだけど、3回目からは意識も朦朧としてて……よく憶えてない。えっと、だから、3回だけかも……」  俺たちの雰囲気を感じ取ってか、ミツが誤魔化すような笑みを浮かべて言ってきた。 「……2回、なのかな……?ご、ごめんね。よく、わからなくて……えっと……抑制剤、いっぱい……飲んじゃったから……その……」  怒られると思っているのか、俯きながら自分の腕に爪を立てるミツの手を制し、ギュッと握る。 「ごめん、なさい……貰ってた薬、全部使っちゃって……。言われてた量、守れなくて、ごめんなさい」  自己嫌悪に苛まれるミツの頭を抱き寄せ、大丈夫だと何度も耳元で囁いてやる。 「うんうん、みっちゃん頑張ったんだね。確かにオーバードーズしちゃったのはダメだけど、今回はしかたないよ」  へにょっと眉を下げて困ったように笑う小林だったが、表情とは裏腹にその視線は険しいものだった。 「とりあえず、みっちゃんは今、栄養失調と脱水、オーバードーズの状態で身体はボロボロなんだよ。気になることもあるから、今からちょっと色々検査しよっか」  ミツにはわからないように、いつもの軽い口調で話しつつも、スタッフに色々と指示を出して準備を始めている。 「大丈夫、怒ってないからね。ただ、もうちょっとだけ早く連絡して欲しかったなぁ~。 オレもだけど、スタッフのみんなもみっちゃんのことすっごく心配してたからさ。後で他のスタッフの子たちにも会いに行ってあげてね」  子どもでもあやすように、ミツの頭をポンポンと優しく撫で、慈愛に満ちた目でミツを見つめる。  コイツにミツの状況を先に説明していたこともあり、本気で心配していたのを知っている。  だから、「ミツに触るな」って文句を言いたいが、言いだしにくい。  本音は、コイツにもスタッフのヤツにも、ミツを触らせたくない。  俺だけが、ミツに触れていたい。  そんな俺の本心がバレてしまっているのか、小林は俺をジト目で見ながら言ってきた。 「で、春輝(ハルキ)は車で待機。ここはΩの子専用の診療所なわけ。お前みたいなスパダリなα様がいると、頑張ってここに来た可愛いΩちゃんがみんな委縮するだろ」  さっきまでのミツへの態度とは打って変り、俺のことを邪険に扱ってくる。 「今のお前のオーラは、患者さんへの悪影響でしかないからさっさと出て行けよ。毒はここにはいりませーん」  さっきまでの慈愛に満ちたあの顔はどこに行った?  ミツと俺とでは扱いが違うくないか?  いや、コイツにあんな視線で見つめられたら殴りたくはなるが……  でも、俺に対して適当過ぎないか?  色々文句を言ってやりたいが、さっきからさっさと出て行けと言うように手をシッシッと振っている。  ただ、俺にだけわかるようにハンドサインをしてきた。 「はいはい。センセー様が邪魔だって言うなら、俺は車で待機しときますよ」  諦めたように両手を軽く上げ、ミツに声を掛ける。 「ミツ、大丈夫だから。診察が終わったらミツの元に戻って来るから。だから、ちゃんと検査して大事がないか調べて貰ってくれ」  ミツの額に自分の額をコツンと当て、不安そうなミツと目を合わせる。 「コイツ、こんなんだけど一応、多分、優秀なのはミツも知ってるだろ?」  俺がワザと小林のことを下げるように言うと、緊張が抜けたのかクスクス笑いながら頷いてくれた。  ミツが笑ってくれたことに安堵し、俺は言われた通り車の中で待つことにした。  なにかあれば、アイツが教えてくれるだろう。  ミツのことも、それ以外も……  アイツだけは、信用できる。  唯一、ミツを預けても安全と言えるこの場所だから……

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