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第33話
「先日の事故で亡くなったのは――」
広く静かなリビングで、ボーっとテレビのニュース番組を眺めながら、あの時のことを色々と思い出していた。
ずっと諦めていた初恋。
幸せなはずだったのに、悲しい思い出しかない結婚生活。
ひとりぼっちの日々。
発情期 のたびに、壊れるかと思った。
帰って来て欲しいのに、そばに居て欲しいのに、触れて欲しいのに……彼は僕を裏切った。
あの人に捨てられて、死ぬのを待つだけだと思っていた。
誰にも迷惑をかけないように、隔離して貰える病院に入ろうと思っていたから……
まぁ、病院に入ろうにも、あの人に貯金を取られちゃったから、身体を売って資金を貯めなきゃいけなかったんだけど……
なんで僕だけがこんな目に遭うんだろう?って、自分のことも、あの人のことも、あの子のことも……全部を恨んだ。
死んだら楽になるのかな?って、本気で思ってた。
でも、その度にハルくんの顔が過ったんだ……
ずっと好きだった僕の初恋の人。
ハルくんが僕をあの悲しい巣箱から救い出してくれた。
全てを忘れてしまいたいけど、忘れることなんてできない。
嬉しかったことも、少しだけだけど、確かに存在するから……
今にも壊れそうな僕を、死にそうな僕を救ってくれたのがハルくんだった。
諦めていた初恋が、両想いになって……
ハルくんに「愛してる」って、言ってもらえた。
元番 に捨てられた僕を、ハルくんは番 にしてくれた。
今でも夢じゃないかって思ってしまう。
ハルくんの番 は、家柄も容姿も教養もあるすごく素敵な人じゃないとダメだって思ってたから……
おじさんには、反対されると思ってた。
前に忠告されてたから、今でもダメだ。って、言われると思ってた。
おじさんに何も言わず、勝手に番 になっちゃったから、絶対反対されると思ってた。
でも、久しぶりに会ったおじさんは、僕に向かって深く頭を下げて謝ってきた。
「わたしが余計なことを君に言ったせいで……本当にすまなかった。これからは幸せになって欲しい」
ハルくんはおじさんの態度にムッとしてたけど、僕がびっくりしている様子を見て笑ってくれた。
多分、今までハルくんが色々頑張ってくれてたからなんだと思う。
おじさんに認めて貰うために、ハルくんはすっごく頑張っていた。
ハルくんが立ち上げた会社はおじさんの会社と統合することになって、そのままハルくんが社長として引き継いだ。
本当は嫌だったはずなのに、僕との関係を認めて貰うために……
ハルくんが会社を継いでからは、おじさんの態度が少しだけ優しくなった気がする。
ハルくんはおじさんにまだ少し怒っているみたいだけど、僕はハルくんとの関係を認めて貰えて嬉しかったんだ。
ずっと、ずっと、許しては貰えないと思ってたから……
シゲルさんに捨てられたあの日から、もうすぐ2年の月日が過ぎようとしている。
シゲルさんと運命のあの子は……
僕とハルくんが番 になってしばらくしてから、事故で亡くなったのをニュースの報道で知った。
おじさんの会社のお金を横領してたらしい。
その事がニュースで報道されてしまい、身内がそんな問題を起こしたことによって、おじさんの会社も傾いてしまった。
連日、ニュースでその話題は持ちきりだった。
時々映るシゲルさんの顔は、僕の知っている彼とは違っていて、すっごく疲れた顔をしていた。
あの子は、一切テレビには映ってなかったけど、お腹の赤ちゃんはどうなったんだろ……
無事だったらいいのに……って、思っていた。
数日後、2人が事故を起こして亡くなったのを、洗濯物を畳みながら見ていたニュースで知った。
ニュースでは、一応事故ってことになっていたけど、真相はわからない。
自殺か事故か……それとも……
2人の乗った車が、カーブを曲がりきれずそのまま海中に落ちたらしい。
見晴らしのいい場所で、緩やかなカーブだったのに……
ブレーキ痕は見当たらなかったって、先生とハルくんが話してるのを聞いた。
結構スピードが出ていたらしく、それを偶然捉えていたドライブレコーダーの映像が、何度も放送されていた。
最初は結構話題になっていた。
2人がどうしてそんなところにいたのか……
本当に事故だったのか……
精神的に追い詰められていた様子から、自殺だったんじゃないか?って、色々な憶測が出ていた。
なんせ、横領のことがバレてすぐだったから……
でも、真相はわからないまま、そのニュースもすぐに見なくなった。
あの2人が亡くなったことも、僕がハルくんの番 になれたことも、全然実感が湧かない。
沸かないけど、僕のうなじにはシゲルさんとの番 の絆である噛み跡は今はもうない。
シゲルさんとの番関係がなくなったのは事実だ。
代わりに、ハルくんに付けて貰えた番 の証 がくっきりとうなじに刻まれている。
僕とハルくんを繋ぐ、大切な証 。
鏡に映るたび、つい嬉しくなって頬が緩んでしまう。
これは現実なんだって、確認することができるから……
ハルくんと番 になってからは、発情期 の時期も怖くはなくなった。
ただ、発情期 じゃなくてもほぼ毎晩身体を求められちゃうから、体力が保たなくて大変だけど……
昼間はすっごく優しいのに、夜はすっごく意地悪されるし、いっぱい啼かされちゃうんだよね。
でも、あの人と違って、毎日「愛してる」って言ってくれる。
発情期 の時も、ずっと側に居てくれる。
やっと手に入れた幸せ。
ずっと欲しかった、大切な時。
◇ ◇ ◇
「ミツ、どうした?昨日もまたいっぱい泣かせたから疲れたのか?」
僕を背後から抱きしめながら頬擦りしてくる甘えたなハルくん。
「ううん、僕、幸せだなぁ~って思っただけ。でも、今後はちょっと手加減してよね。パパになるんだから」
ハルくんを嗜めるように鼻先をツンっと人差し指で突きながら、悪戯っぽく舌をちろっと出していう。
「ハルくん、大好き♡」
僕が言った言葉に目をパチクリとさせ、固まっているハルくんの頬にチュッと音を立ててキスをする。
「えっ……?ぱ、ぱ……?パパ!?み、ミツ!そ、それって……!?ぇ?本当なのか?本当に?って、いやいやいや、昨日あんな……。奥までぐちゃぐちゃに可愛がっちゃダメだよな?いや、そもそも安定期までセックスとかダメだろ!それに、そんな薄着!?」
慌てふためく彼の姿に笑い過ぎて涙目になってしまった。
そんな僕を見て、困ったような笑みを浮かべながらも愛し気に抱きしめてくれるハルくん。
「笑いすぎだ。俺もミツを愛してる!ミツもお腹の子も、ずっと愛して守るからな!」
涙目になって喜んでくれる大好きなα様。
僕の世界で一番愛している人。
ずっと……この幸せが続きますように。
この人と、ずっと番 でいられますように……
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