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プロローグ

「愛してる、一生大切にするよ」  うなじにチリチリと甘やかな痛みを感じ、無意識に涙が溢れ出した。 「うん、僕も愛してる。ずっと、一緒にいてね」  彼の腕に包まれ、愛おし気に何度もキスをしてくれる。  出逢ってすぐに運命かもって思ったんだ。  カッコよくて、優しくて……  この人は、僕のコトを大切にしてくれる。 「番になろう」って言ってくれた日は、本当に嬉しかった。  失恋を癒してくれた大切な人。  この人とこれから幸せになるんだって、心の底から思っていた。  大好きな幼馴染のハルくんにも報告して、祝福して貰えて……  人生で一番幸せだった日。  忘れるはずがない。幸せな日々だった。  この時は、ずっとこんなしあわせが続くと信じていた。  目が覚めると、抱きしめていた服がしっとりと濡れている。  寝ている間に泣いてしまったのか、頬にも泣いた跡が残ってしまっていた。  まだぼーっとする頭で辺りを見渡すも、静か過ぎる部屋には僕以外誰もいない。  大切な人の姿もなければ、帰って来た形跡も見当たらない。  広いダブルベッドの上に、無造作に積み上げられた沢山の衣類の山。  巣とは形容し難いただの衣類の山。  埋もれるように眠っていたから、這い出た時に山は崩れてしまった。  彼が一番よく着ていたはずのワイシャツに顔を埋め、すぅーっと肺いっぱいに匂いを吸い込む。  本来なら、(つがい)である彼の匂いを一番強く感じられるはずなのに、ワイシャツには柔軟剤と自分のフェロモンの匂いしかしなかった。  他の衣類を嗅いでみても、どれも同じで、とっくに彼の匂いなどは消えてしまっている。  好きな人の匂いが全然しない、誰の巣なのかもわからないモノを見て、改めて虚しさだけが募っていく。  最後に彼がこの服を着たのはいつだろう。  彼と会ったのは、いつが最後だろう。  最後に話しをしたのは……  最後に触れてくれたのは……  ずっと帰って来ない(つがい)相手に想いを馳せるも、涙が零れ落ちるだけで何も答えなんて見つからない。 「運命の(つがい)を見つけた!」  ある日突然、彼に告げられた言葉。  結婚して1週間しか経っていないあの日、僕は信じられない言葉を彼から告げられた。  彼が仕事から帰って来るのを楽しみに待っていた。  彼の好きな料理をたくさん作って、今日あったことを色々話したかった。  それなのに、帰って来た彼の第一声は裏切りの言葉だった。  いつも落ち着いた雰囲気の彼なのに、その日はよっぽど嬉しいことがあったのか、高揚した顔で興奮気味に話して来た。 「まさか出会えるなんて思ってなかった!俺の、俺だけの運命の(つがい)が現れるなんて!」  すごく、すごく嬉しそうな笑みを浮かべ、饒舌にしゃべる彼。  今まで見たどんな時の顔よりも、僕に告白してきた時の顔よりも、初めて繋がった時の顔よりも、ずっと嬉しそうな笑みを浮かべていた。 「……え?」  何を言ってるのか理解ができなくて……  理解したくなくて……  頭の中が疑問と不安でぐちゃぐちゃになったのを覚えている。  その時の僕は、いったいどんな顔をしていたんだろう……  僕の仕事や予定も確認せず、勝手に日にちを決められて、彼の運命の人に無理矢理会わされた。  会いたくなんてなかった。  知りたくなんてなかった。 「大丈夫、俺はみつるのことを愛してるから」  彼の言葉を信じて、嫌だったけど運命の(つがい)と言われている彼に会うことになった。  会ったところで何を話せばいいのかなんてわからなかったのに……  当然のように、(つがい)である彼の後ろからひょっこり現れた小柄な可愛らしい人。  フワフワの柔らかそうな髪に、きゅるんとしたこぼれ落ちそうな大きな目。  僕と彼の顔を交互に見つめる姿は、ことりみたいで本当に可愛かった。  可愛いという言葉がピッタリな人。  誰にでも愛されて、庇護欲を刺激されそうな人。  誰もがこの人を見たら【Ω】だというだろう。  それくらい、可愛くて守ってあげたくて、理想的な人だった。  それが、僕の(つがい)であり、愛しい人の運命の(つがい)相手だった。  僕と(つがい)の彼が結婚して1週間。  まだたった1週間しか経っていないのに、僕の幸せは瓦解した……

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