1 / 3
第1話
大学生である稜(りょう)は、ケーキ屋の前の公園で待っていた。
(今日こそ、るりちゃんに告白しよう)
相手はケーキ屋でバイトする、るりという女子大生だ。何度も告白しようと彼女のバイト上がりを待っていたが、勇気が出ずクリスマスイヴ当日まで持ち越してしまった。
(大丈夫、きっと上手くいく)
そう自分に言い聞かせていると、店の扉が開いて、るりが出てきた。
稜が声をかけようと、息を吸った時、背後から男の声が響いた。
「るりー!」
(え?)
るりの元へチャラ男が走ってきた。るりが嬉しそうに笑う。
「たっくん! 迎えにきてくれたの? るり嬉しぃ〜」
「当たり前だろ、イヴなんだから」
「遅くなってごめんねぇ〜、今日店長が過労で倒れちゃって〜、店超大変でぇ〜」
稜は目の前で腕を組むカップルをただ見ることしかできなかった。ふとるりと目が合う。
「あ、あいつまた来てる。キモ」
低い声でそれだけ呟くと、るりは天使の笑みをたっくんに向けて、去っていった。
(キモイって、俺のこと……?)
稜は呆然としたまま、しばらくその場に立ち尽くした。
一人暮らしの自分の家に帰るつもりはなかった。なぜなら、るりが来るかもしれないとせっせとパーティの準備をしていたのだ。手元からぶら下がっているのは、激安店で買ったシャンパン。無論、るりと飲むために買ったのである。
(公園で飲もう)
そう思って歩を進めた時、稜は違和感を感じて立ち止まった。
「あれ?」
ケーキ屋のマスコットキャラクター、ジョンじいさんの人形がシャッターの前に置かれっぱなしになっていたのだ。
(いつもなら、店にしまわれているのに)
ジョンじいさんは、ケーキ屋の店先に飾られているお馴染みの等身大の人形である。いかにもアメリカ人らしい大きな瞳で、人の良さそうな笑みを浮かべて店先に立っている。トレードマークのカウボーイハットは、今はサンタクロースの帽子に変えられている。
「じいさん、あんたも一人か?」
一人心地に呟いただけだったが、じいさんは一瞬とても悲しげな表情を浮かべたように見えた。
稜はジョンじいさんを押して、そのまま公園のベンチまで移動させた。
「一緒に飲もうぜ!」
虚しいような楽しいような。不思議と酒は進んだ。時々、通行人の笑い声が耳をかすめたが、それすらも酒の肴となった。
るりもあのチャラ男と聖夜を共に過ごすのだろう。それに比べて自分は公園で一人酒を飲むなんて。
「俺も早く童貞捨てたい……」
寒い、悲しい。そんな気持ちを紛らわすように、稜は紙コップに注がれたシャンパンを飲み干した。
「今日は飲むぞ、とことん飲むぞ! なあ、じいさんお前も飲め!」
新しいコップに酒を注ぎ、ジョンじいさんの前に置いた。これで、一人じゃない……はず。
悲しい現実も、酒があれば見なくて済む。とにかく楽しく飲んで、今日という日を走り抜けよう。
稜はそう決めると、星の見えない夜空に乾杯した。
ともだちにシェアしよう!