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第1話

 大学生である稜(りょう)は、ケーキ屋の前の公園で待っていた。 (今日こそ、るりちゃんに告白しよう)  相手はケーキ屋でバイトする、るりという女子大生だ。何度も告白しようと彼女のバイト上がりを待っていたが、勇気が出ずクリスマスイヴ当日まで持ち越してしまった。 (大丈夫、きっと上手くいく)  そう自分に言い聞かせていると、店の扉が開いて、るりが出てきた。  稜が声をかけようと、息を吸った時、背後から男の声が響いた。 「るりー!」 (え?)  るりの元へチャラ男が走ってきた。るりが嬉しそうに笑う。 「たっくん! 迎えにきてくれたの? るり嬉しぃ〜」 「当たり前だろ、イヴなんだから」 「遅くなってごめんねぇ〜、今日店長が過労で倒れちゃって〜、店超大変でぇ〜」  稜は目の前で腕を組むカップルをただ見ることしかできなかった。ふとるりと目が合う。 「あ、あいつまた来てる。キモ」  低い声でそれだけ呟くと、るりは天使の笑みをたっくんに向けて、去っていった。 (キモイって、俺のこと……?)  稜は呆然としたまま、しばらくその場に立ち尽くした。  一人暮らしの自分の家に帰るつもりはなかった。なぜなら、るりが来るかもしれないとせっせとパーティの準備をしていたのだ。手元からぶら下がっているのは、激安店で買ったシャンパン。無論、るりと飲むために買ったのである。 (公園で飲もう)  そう思って歩を進めた時、稜は違和感を感じて立ち止まった。 「あれ?」  ケーキ屋のマスコットキャラクター、ジョンじいさんの人形がシャッターの前に置かれっぱなしになっていたのだ。 (いつもなら、店にしまわれているのに)  ジョンじいさんは、ケーキ屋の店先に飾られているお馴染みの等身大の人形である。いかにもアメリカ人らしい大きな瞳で、人の良さそうな笑みを浮かべて店先に立っている。トレードマークのカウボーイハットは、今はサンタクロースの帽子に変えられている。 「じいさん、あんたも一人か?」  一人心地に呟いただけだったが、じいさんは一瞬とても悲しげな表情を浮かべたように見えた。  稜はジョンじいさんを押して、そのまま公園のベンチまで移動させた。 「一緒に飲もうぜ!」  虚しいような楽しいような。不思議と酒は進んだ。時々、通行人の笑い声が耳をかすめたが、それすらも酒の肴となった。  るりもあのチャラ男と聖夜を共に過ごすのだろう。それに比べて自分は公園で一人酒を飲むなんて。 「俺も早く童貞捨てたい……」  寒い、悲しい。そんな気持ちを紛らわすように、稜は紙コップに注がれたシャンパンを飲み干した。 「今日は飲むぞ、とことん飲むぞ! なあ、じいさんお前も飲め!」  新しいコップに酒を注ぎ、ジョンじいさんの前に置いた。これで、一人じゃない……はず。  悲しい現実も、酒があれば見なくて済む。とにかく楽しく飲んで、今日という日を走り抜けよう。  稜はそう決めると、星の見えない夜空に乾杯した。

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