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4-2.5 両片思いのおわり

 その唇の感触は、あの時とは全然違った。  放課後に教室で眠っていた白兎にキスした時。  毒に侵された白煉に口移しで薬を飲ませた時。  これは、そのどちらとも違う。  広い寝台の真ん中にふたり。  座り込んで向かい合ったまま。  優しく、啄ばむように何度も何度も唇を重ねた。俺の青い上衣をきゅっと力なく掴んだ指先が、拒むためというよりは寧ろ求めているようにも思えて。俺はそのすべてに興奮した。息づかいも。慣れない行為に戸惑う様子も。ぜんぶ。  白兎の身体が後ろに傾がないように、その薄くて細い腰に手を添える。それに関して許可を求めることはしていなかったが、これからやろうとしている行為には、本人の同意も必要だろう。 「ごめん····俺もう、限界なんだけど、」 「····な····に?」    長い口付けを終え、耳元で囁く。もっとしたいけど、たぶんふたりとも同じ気持ちだろう。生理現象といってしまえばそれまでだけど。俺だって我慢できないこともある。  白兎は夢の中にでもいるようなぼんやりとした表情で俺を見上げて来て、それがなんだか艶っぽくて余計に腹の下の辺りが疼いた。  今自分がなにをされているのかも、これからされようとしているのかもわかっていないのかもしれない。俺は、卑怯なのかな? そんな状態の白兎の乱れた白い衣裳の赤い帯に手をかけて緩めていく。 「····ホントにわからない? 俺が今したいこと、」  首筋を吸うように甘噛すると、びくんと身体が強張った。腰に添えていた手をゆっくりと上に持っていき、そのままそっと肌を撫でるように上衣を右肩から滑らせる。 「あ、····や、やだ····っ」  露わになった真っ白な肌。包帯はしておらず、けれども痛々しい傷痕は残っていて。縫合された部分が腫れているせいか、その周りがほんのりと赤紫色に染まっていた。  白き龍の民は確かにトクベツな存在だけど。あの猛毒に侵されてもなお、この短期間でここまで回復しているとは思いもしなかった。それでもこの傷痕自体は、一生消えずに残ってしまうことだろう。  そう思うと、この傷痕が愛しくさえ思えてくる。 「ここ····まだ、痛む?」 「····へ、平気、だから····っ」  清らかで滑らかなその肌は、今まで誰にも触れされたことがないって信じてもいい?  傷痕に唇を落とす。傷に沿ってつぅっと舌を這わせると、敏感になっているせいか、白兎は涙目で首を振って応えてくれた。 「····も、····やだよ、」 「ごめんね。じゃあここ、さわっていい?」  俺がそういって視線だけそこ(・・)に向けると、白兎の表情は案の定固まった。数秒間の思考停止後、その意味を知った瞬間――――ものすごい速さで隙間を隠すように足を閉じてしまった。  顔を真っ赤にして、無言のまま俯いてしまった白兎。これから俺がなにをしようとしているか、気付いてくれたってことでいい? 「このままじゃ苦しいだろ? それともひとりで、できる?」 「――――っ!?」 「じゃあ、俺に任せて、」  衣の上から太ももに触れ、ゆっくりと伸ばした指先。衣の下ですでに小さく盛り上がっているそこにちょっと触れただけで、白兎の身体がびくんと大きく揺れた。 「じゃあ正面向いたまま、ここにのって? あと、俺の首に両腕まわして? 」 「え····どう、して?」  不思議そうに首を傾げ、見上げてくる。それ、可愛いな。白兎のすべての仕草が可愛く思える。実際、超絶可愛くてエロい。潤んだ大きな瞳も、吐息で話すような掠れた色っぽい声も、柔らかい肌も、ぜんぶ。 「いいから、のって?」  向かい合っていた白兎の手を取って、先に寝台の端に移動して座り、ぽんぽんと太腿の辺りを軽くたたいて『ここ』と示す。 「な、んか····どきどきする」 「俺も同じだよ。ほら、おいで?」  なるべく優しい口調で言うように努力してるつもりだ。白兎は戸惑いながらもゆっくりと腰を浮かせて俺の上に座り、言われたとおりに両腕を首にまわした。  さっきよりもぴったりとくっついた身体が触れ合う。ふたりとも心臓がどくどくして、身体が熱に浮かされてるのがわかる。 「さわるね、」 「ん······っ」 「腕、ツラくなったら言って? その時は俺が支えるから、」 「が、····がんばる····っ」  白兎はなんの意地か、ぎゅっと俺にしがみつくように力を込めた。細腕なのに意外と力があるのは、白煉の身体能力の賜物だろうか。 「ホントにイヤだったら、止めるから····その時は俺の腕でも肩でもいいから、噛んで教えてくれる? そうでもしないと、止めないと思うから、」 「う、うん····?」    緩んでいた帯を完全に解く。はらりと(はだ)けた薄い単衣の隙間に手を伸ばすと、すでに立ち上がっている白兎の熱い部分をそっと握り、上下にゆっくりと動かし始める。  男同士で抜くって気持ちいいって聞いたことがあるけど、もちろん実践したことなどない。 「白兎の、あつい。俺のも。わかる?」 「····や、やだ······やっぱり····じぶんで、する····から····っ」 「今更、····もう遅いよ、」  ぬるりとした生あたたかいものが指の間に絡みつく。とろとろと先の方から零れてくるそれに、俺自身を同時に触れさせて。重なり合うその快感に溺れそうになる。 (やばい····なにこれ、気持ちいい。白兎のと俺のが触れ合って····音、めちゃくちゃエロい)  時折びくりと肩をふるわせながら。他人(ひと)から触られて、より敏感に感じているのかもしれない。白兎の首筋に顔を埋め、そのほんのりと染まった場所を喰む。  白兎を右手で上下に動かしながら、そのまま強く吸い付いて印を残す。ぷくりと膨れた胸に左手を這わせながら突起を刺激すると、びくびくとふるえる身体。その反応だけで、俺は自分の欲が満たされていく。 「······んんっ」  声を出さないようにしようとしているのか、白兎は首にしがみつき、身体を隙間なく寄せてくる。目をぎゅっと閉じて俺の右肩に顔を埋めながら、必死に堪えているようだった。 (こんな顔、誰にも見せたくない····俺だけが知ってれば、いい)  声、我慢しなくていいのに。  俺だって余裕ない。  はじめてのことばかりで。  ちゃんと白兎が気持ちよくなってくれてるか不安になる。 「や·····やだ····っ」 「我慢、しなくていい····俺も、もう、」  白兎と俺自身をその手で上下させ強く擦ると、俺たちはほぼ同時に果てた。  白兎が絡めていた腕をほどき、今度は甘えるようにそっと背中に触れてきた。  握っていた手を放し、寝台の敷布で手に残った白濁を処理した俺は、白兎を支えるように腰に右腕を回した。そして左手で頬を撫でながら、幸福感に満ちた笑みを浮かべて伝えたかった言葉を紡ぐ。 「白兎、好きだよ。俺には、お前だけなんだ。これから先、ずっと、俺の傍にいてくれる?」  ぎゅっと密着している身体をさらに寄せ合って、俺は告白する。こんな形で告白することになるなんて思いもしなかった。 「····俺で、本当にいいの?」 「白兎しかいらない」 「······そういうところ、昔から変わらないよね」  そのままの体勢でお互いに自然に顔を寄せ合って、もう一度深く長いキスをした。  このぬくもりは、本物で。目の前にいるのは間違いなく白兎で。今度こそ本当に、俺の想いは伝わったよな? 「おやすみ、白兎」  寝台に白兎を寝かせ、その隣で横になる。自分よりずっと小さくて細い身体を抱いて、眠りにつく。小さい頃、こんな風に一緒にくっついて眠った記憶が甦る。やり直したいなんて思わない。だって、今が一番幸せなんだ。  終わらない夢の中で、ずっとふたり。  それが、俺の望み。  エンディングを迎えた時、俺たちはまた離れるのだろうか?  物語の終わりは、夢の終わり。  すべてが終わった時。  俺たちは、どこへ行くんだろう。  できることならこのまま、終わらない夢の中でふたり。  永遠に眠っていられたら、いいのに。

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