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5-3.5 薄い本(BL同人誌)が初体験の恋人の反応が可愛すぎる 

 キラさんから預かった本を閉じた海璃。俺はあとがきにあった注意事項を読んだあと、あまりの衝撃な内容に固まってしまった。  さっき自分が感情のままに言ってしまった台詞に、今更ながら恥ずかしくなってくる。 『海璃は、俺と····その、したくないって、こと?』 『俺も最初に聞いた時は無理っておもったけど、でも、海璃となら、この本の中のふたりみたいに、』  でも本当に、そう思ったんだ。  BL本の青藍と白煉が、お互いの想いが高まってそういう行為にいたったこと。好き同士なら、いつかはそうなってもおかしくないこと。それは男女だろうが同性同士だろうが同じなんだって。  でも····。 『ここまで読んでくれてありがとう! ここからは注意事項だよ~。作中では簡単にふたりは合体しちゃってるけど、実際はこんなの無理だから、実践しないこと! BL漫画あるある。するっと入る受け。ないない。これを読んでしまったそこのあなた! もし自分の大切なひとと"する"時は、ちゃんと慣らしてからするんだよ? 個人差があるらしいけど、数日は準備が必要だって、知り合いが言ってた。準備っていうのは――――、』  あの続きを読んで、俺は怖くなってしまった。  男同士で"する"のにあんなところを使うなんて、知らなかった。  何日も"あそこ"をほぐさないと駄目だなんて。海璃の、というか青藍のあれを白煉()のあそこに····って、絶対無理だよ! 『入りやすくするためには潤滑剤、つまりローションなんかを使って念入りにほぐす必要があるんだって。やってもらうか自分でやるか。悩ましいところね。私的にはいちゃいちゃしながら"攻め"にやってもらうのがおいしいけど。"攻め"のために甲斐甲斐しく自分でする"受け"も捨てがたいわね!』  キラさん····前に「いちゃ」とか、「おいしい」とか言ってたのって、そいういう意味だったのかな?  そんな中、隣でだんまりしていた海璃が俺の腰に手を添えてきた。どきっと心臓が大きく飛び跳ねる。俺、そこを触られるの苦手みたい。なんだか触られた場所が落ち着かずざわざわするのだ。 「····白兎、」 「あ、えっと、な、なに?」  少し掠れた声で海璃が俺の名前を呼んだ。 「白兎は、どうしたい?」  困ったような表情を浮かべて、海璃は俺の顔を覗き込むように見つめてきた。こんな時でも俺の気持ちを優先してくれるの? 「····海璃は? 俺、すごく迷ってる。こういうのって、ふたりの気持ちが大事でしょ? 海璃の気持ち、知りたい」 「俺は白兎を傷付けたくない····でも、色んな場所に触れたいと思うよ? だって、好きなひとのいいところ(・・・・・)、ぜんぶ知りたいし」 「······いいところ、って?」  性格とか、そういうこと?  それならもう、お互いに知り尽くしてると思ってたけど。まだ俺の知らない海璃がいるってこと?  俺が首を傾げてその薄青の瞳を見つめていたら、腰に添えられていた手がするりと"ある場所"へ移動した。 「わからない? 例えばここ。触ったら白兎はどんな顔するんだろう、とか。あの時みたいに可愛い顔してくれるのかな、とか····そいういうこと、」  俺の左隣にいる海璃の指先が触れようとしている場所。衣の上から這うようにゆっくりと進んで行く先。もう片方の手で薄い本を寝台の横の低い棚の上に置くと、海璃を見つめていた俺の顎に人差し指を添えて上向きにし、親指の先だけ唇に触れてきた。 「白兎も俺のこと、怖い?」 「······どうして?」  海璃を怖いだなんて思ったことはない。一度も。  青藍に()る気満々の顔で押し倒された時は、それが海璃だとは知らなかったから「殺される!」と思って、正直怖かったけど。 「海璃はずっと、俺に優しいのに····怖いって、どうしてそんな風に思うの? 俺の知らない海璃は、そんなに怖いひとなの?」 「そうだよ。俺のこと、みんなの人気者だなんて白兎は言うけど····そんなの本性隠して猫かぶってるだけだし。あいつ(・・・)は俺のこと怖いってはっきり言ってたよ、」  あいつ、って(みやび)ちゃんのこと? かな。  海璃がそんな顔をするのは、決まって"もうひとりの幼馴染"の話をする時くらいだった。 「白兎が知らない俺の黒くて淀んだ感情。知ったらきっと嫌いになる」 「それって皇后様がいってた、俺を隠したいとか縛りたいっていう?」  それはつまり、それくらい俺のことを好きって····そういう解釈でいいの? 「あのなぁ····俺はひと言も"縛りたい"なんて言ってないからな? そこはちゃんと否定しておく!」  あ、海璃が子どもみたい。  青藍の顔に重なって、海璃の不貞腐れた顔が浮かんで見えた。 「あ、笑ったな····でも、隠したいっていうのはホントだぞ?」 「うん······だから、嬉しくて、」  だって海璃は、ずっとそうだったよね。 「俺、海璃とずっと一緒にいたい。元いたセカイに戻れなくても。白煉としてでもいいから、青藍の傍にいたいんだ」  海璃は知らない。  俺が、どれだけ海璃に依存しているか。  海璃が望むなら、なにをされてもいい。  海璃が傍にいてくれるなら、それだけで幸せ。 「海璃になら、俺のぜんぶ····あげてもいいよ?」  触れられたままの親指を唇で()む。  その行動に対して、海璃を繋ぎ止めていたなにかが、ふつりと切れたようだった。そのまま寝台に押し倒されながら、息つく暇もないくらい何度も何度も深く激しい口付けに溺れていく。  あのBL本の白煉みたいに、気持ちが満たされていくのを感じた。  白い単衣に浅葱色の衣を纏っているだけの軽装だったので、漢服と違って簡単に肌を露わにされた。衣が合わさっている胸の辺りから、するりと滑り込んでくる自分とは違う温度に、俺はびくびくと無意識に反応してしまう。 「最後まではしない····から、触ってもいい?」  胸を撫でる左手とは別に、右手が腰よりもさらに下の方に添えられた。寝台と俺の間に潜り込んできたその手の行く先を想像して、俺はなんともいえない気持ちになる。そんな俺をよそに、海璃は俺の上半身を支えるようにして起き上がらせると、袖から小瓶を取り出してその蓋を口で開けた。 「蒼夏(そうか)がくれたやつ、試してみていい?」 「な····に······?」  蒼夏がくれた?  その小瓶の中にはなにが入ってるの?  俺は怖いもの見たさでゆっくりと頷く。海璃はそれを同意として受け取り、完全に俺を起こした状態で自分の方へと引き寄せた。すると、前に一緒にした時のように海璃に跨る格好になり、立ち膝で俺が見下ろすような状態になった。 「これから俺がしようとしていること、嫌なら今の内に言って? じゃないと、止められないから」  青藍の台詞だった。  嫌、なんかじゃない。 「好き····だから、止めないで、」  俺は海璃の首に両腕を回し、そのまま唇を触れさせた。それを合図にするようにこぽこぽという音がして、海璃の指先がするりと衣の隙間から肌に直接触れてきた。ひんやりとして、ぬるぬるしている指先。さっきとは違う温度に、思わずびくりと身体が反応した。  甘くていい匂いがする。  花の香り? 「白兎、痛くない? ちょっとずつ広げてくけど、平気? 怖くないか?」  海璃のどの指が俺の中を進んでいるのか、わからない。痛くない、といったら嘘だけど。ぬるぬるしている液体のおかげで、すんなりと奥へと受け入れているのがわかった。  くちゃくちゃと耳に届く音がなんだかいやらしい。でもなにをされているのかは、わかる。  ぎゅっと目を閉じて、俺は海璃に身を任せるしかなかった。 「····こっちも触るね?」  ゆるりと立ち上がっている俺自身をもう片方の手で上下させ、後ろと前から違う音が響く。思考が追い付かなくて、俺はしがみ付くように身体を寄せた。すると、同じように立ち上がっている海璃の"それ"が俺に触れてきた。 「か、いりの····も、くるし?」  この時の俺は、その快感でおかしくなっていたのかもしれない。 「お、れも······さわって、いい?」  青藍のそれは、俺なんかのとは比べ物にならない。こんなものが、本当に入るの、かな? 触れながら、俺はどんどん頭の靄が晴れていくようだった。  そして自分が、どれだけ恥ずかしいことをしているのかを思い知る。そんな想いとは別に、迫ってくる強い快感にがくがくと腰と膝が震えた。  触れられた感覚が身体中に残り、いつまでもその火照りが冷めないまま、気付けば眠気に襲われる。  そのまま俺の意識は途切れて、目を覚ました時にはすでに昼になっていた。

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