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会長室から出てしばらくしても、御月堂の手は腰に回されたまま離れる気配がなかった。
戸惑いと恥ずかしさを入り混ぜた姫宮は、「あの、ちょっと⋯⋯」と躊躇いがちに離れようとしたが、より自分に抱き寄せた。
「慶様⋯⋯?」
どうされたのだろう、と顔を見上げた時、御月堂は言った。
「離れてもいいが、自分で歩けるのか」
「え⋯⋯?」
ほら、と御月堂が腰から手を離した。その時。
ガクッと膝から崩れ落ち、驚いたのも一瞬、御月堂がすぐに支えてくれた。
「ありがとうございます⋯⋯」
「私も同行して本当に良かった。でなければ、今頃どうなっていたことか」
安堵の意味で深く息を吐いた。
「⋯⋯本当に。ああ言っておいて本当は一人で行くのは心もとなかったのです。ですが、慶様と一緒に行っても良かったのかというのもありまして⋯⋯」
「確かに私もつい愛賀が心配で同行する条件を出してしまったが、これでは愛賀のことを尊重してないと後々に思った。念のために会長に確認を取ったところ、その点に関しては問題ないと返事が来た。恐らく、私自身が選んだ相手と揃って見たかったのかもしれない。合理的に考えたのもあるかもしれないが」
忙しいという意味での手短にと言っていたほどだ。合理的な意味合いの方が大きいといえるが、あの発言だと前者も含んでいるように思えた。
「慶様は会長が選んでくださったお相手がいたそうですね。それでも私を選んでくださってとても嬉しいです。ありがとうございます」
「ああ、それは私の方こそだ。何もかもこちらに背負うつもりだったが、私でも出来ないことはあった。だが、それでも出来る限り愛賀のことを支えたいと思う」
「私も、出来ることは少ないかもしれませんが、慶様のことを支えたいと思います」
笑みを見せると、御月堂も応えるようにふっと笑い返した。
これから先歩む道は、姫宮にとっては未知で困難であるかもしれない。
一人では臆してしまうものだったが、今隣にいる愛しき相手がいたら、どんな道でも歩いていける。
こうして支え合うように。
「帰るか」
「はい」
今までのどの足取りも軽やかで心も浮つく。
きっと大丈夫。
そう信じて──。
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