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第1話
ここは天使牧場。読み方は「あまつかぼくじょう」だが、「てんしぼくじょう」と呼ばれ、人々に愛されている。
天使牧場から発売されている天使のミルクは、牛乳嫌いの人でも美味しく飲めると評判で、天使のミルクを使用して作られた商品も大変人気である。
天使のミルクは優しい甘さとまろやかな舌触りで、濃厚だがさっぱりしている。飲んだ人は幸せな気持ちになる。まさに天使のミルク。
「天使さん、天使のミルク、大人気ですね。僕も飲みましたけど、本当に砂糖不使用なのか疑うくらい甘くて……。でも、砂糖の甘さとはなんか違うというか……。とにかく、美味しいです。
ずばり、天使のミルクの秘密は?」
「うちは特別なことなんて何もしてませんよ」
レポーターに聞かれ、爽やかな笑みを浮かべる天使綾人は、若くして天使牧場のオーナーだ。牛の世話で引き締まった体と、クールな顔立ちで瞬く間に人気になった。
天使のミルクが人気になったのも、彼の美しさが一役買っただろう。
「お若いのに牧場経営、すごいですね」
「両親がはやくに亡くなったので……。この牧場は子供の頃から好きですし、潰したくなかったんです」
「立派ですね」
「いえいえ、そんな。よくある話ですよ」
インタビューが終わると、綾人は牛の世話を従業員に頼み、物置小屋に入る。
「綾人さん、よくあの物置小屋にいますけど、何してるんすかね」
「牛の世話はほとんど俺達に任せて、いい気なもんだよな」
「でも、綾人さんがオーナーになってから、人気になったじゃないですか。味も美味しくなりましたし」
「それも不思議な話だよな。牛の乳自体は、なーんにも変わってねーのによ」
従業員達は噂話をしながら、今日も牛の世話に勤しむ。
「さてと、俺も世話をするか」
「綾人さん、こんにちは」
物置小屋の階段を降り、地下に来ると、少年天使が笑顔で出迎えてくれる。
水色の髪に、青い瞳。背中には純白の羽根。頭上には淡い光を放つ輪が浮いている。その輪は少しかけていた。天使は白い衣をまとっている。
「綾人さん、僕、何をすればいいですか?」
「アオイにしかできない特別なことをしてもらう」
「僕にしか? なんだろう?」
「ついてくれば分かるさ。おいで」
綾人がドアを開けて手招きをすると、アオイは嬉しそうについていく。
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