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第4話

窓の外の景色が緩やかに流れていく。初めて見る高層ビル群にあっけにとられながら、手元はずっと指を曲げたり伸ばしたりしている。 高速道路に入ってからは景色を楽しむという唯一の癒しも失い、視線を落とした。 すると嫌でも視界に入ってしまう、スレンダーな脚。 「こんなに長く車に乗るのは初めてだろう。白希、酔ってないかい? 窓を開けようか」 「あ、いや、大丈……あ、やっぱり窓は開けていただいてもよろしいでしょうか」 こういうの何て言うんだっけ。蛇に睨まれた蛙? けどもっとしっくりくる例えは、獅子だ。真隣に座る青年に気圧されながら、白希は唾を飲み込んだ。 病院前で車とぶつかりそうになった際、颯爽と現れたこの青年に助けられた。また訳も分からぬ間に彼の黒塗りの車に乗せられ、真岡の運転でどこかへ向かっている。 どこか、と言っても本当はさっきの台詞から分かってたりする。この人の家だろう。 あ、お礼。とにもかくにもお礼言わないと!! 顔を前に戻した時、車が停止した。真岡がこちらに振り返り、ドアを開ける。 「お疲れ様です。着きましたよ」 「ふえ……っ」 街中には変わりないが、隣にはとても立派なマンションが建っている。車の中からではとても上層階まで確認できない。 青年は先に降りると、白希に向かって手を差し出した。 「さぁ、どうぞ」 「ありがとうございま……」 手を取りそうになって、慌てて引っ込めた。 危ない。色々あって忘れていた。自分は、迂闊にひとに触れたらいけないのだ。 白希が青ざめていることに気付いたのか、青年は一歩後ろに下がった。 「足元に気をつけて、お姫様」 「あ、……はい」 お姫様という言い回しは如何なものかと思ったが、あえて触れずに車を降りる。 「真岡、ありがとう。今日はもういいぞ」 「承知しました」 「えっ」 どうやら、真岡とはここで別れるらしい。急いで前方へ向かい、深く頭を下げた。 「真岡さん、色々ありがとうございます」 「いいえ。白希様、……それではまた」 彼は微笑むと、ウィンカーを出して発車した。あっという間に車の列に入り、姿が見えなくなる。 その時強い風が吹いて、思わずぶるっとした。季節は春に入ったばかり。夕方にもなると、上着がないと肌寒い。 青年もそれに気付いたのか、肩を抱き寄せてきた。 「ここは冷える。早く中に入ろう」 「……はい」 この人、どうして……。 いや違う。今もこうして触れてるのに、力が暴走してない。この人が原因なのか、それとも自分に原因があるのか。分からないまま、エレベーターに乗った。 道中、そっと壁に触れてみた。一度目は何ともなかったけど、二度目に触れた時は心臓が止まるぐらい冷たかった。 「……っ」 やっぱり変わらないか。 足元を見ながら、彼についていく。十五階建てのマンションで、彼の部屋は十階にあった。 「ここでも充分夜景が綺麗だよ。見てごらん」 「わぁ……っ!」 部屋の明かりが点いて一番に目に入ったのは、宝石箱のような夜景だった。 「すごい……」 床から天井まで広がる大窓に手をつき、呟く。だがまたハッとして、手を離した。 すごいところに住んでるなぁ。 でも彼なら当然かもしれない。 確か今では海外展開もしている大手建設会社。水崎グループ取締役社長のひとり息子。 水崎宗一。自分は、この人を知っている。 振り返り、震える拳を握り締めた。 でも何故、自分をここに連れてきたんだろう。 それだけが解せない。自分はずっと彼に会いたかったけど、彼は仕事やプライベートで忙しいはず。 不安や混乱はあるものの、両手を揃えて頭を下げる。 「あの……火事のときも、助けてくださいましたよね。本当にありがとうございます」 本当はずっと会いたかった。────会ってみたかった。 死ぬかもしれないと思った矢先、夢が叶って。まるで全てが夢のようだ。怒涛の展開で理解が追いつかないし、浮遊感が抜けない。 「んっ!?」 少しして頭を上げると、思いっきり強く抱き締められた。 「白希……! 会いたかった……本当に、無事で良かった」 「んぐ……っ」 力が強過ぎて窒息しそう。顔が宗一の胸に押しつけられれている体勢なのだが、彼は構わずに続ける。 「私のことを覚えてるかな? 私は君を忘れたことは一度もない……東京に移ってからも、君のことだけをずっと考えていた」

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