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第45話

「い、いいえ!!」 閃光のような視線が突き刺さる。 こちらも、触れてはいけない部分を容赦なく突き刺した気がした。最高に姿勢を良くし、彼に向き合う。 「私も不思議だ。あの手紙を否定されるときついものがある。手紙を書いてくれた、君が相手でも」 「な、何でそこまで」 「あの手紙が、孤独だった私を救ってくれたから。かな」 宗一はガウンに袖を通し、脚をベッドの下に下ろした。白希もシーツを引き寄せ、改まって正座する。 「今もそうだけど、比べ物にならないぐらい誰も近寄らせない時期があったんだ」 完璧な彼がそんな疑心暗鬼になってたことがあるなんて、何回聞いても信じられない。 でも、彼だって人間で、理不尽からは守られなきゃいけない。 異常な力を持って生まれて、俺が知らない苦労をしてきたはずだ。 「周りは皆敵と思って生きていた。利用される側と利用する側、どちらになるかを毎日必死に考えていたんだよ」 「それは……苦しくないですか?」 思ったことを正直に尋ねた。彼は穏やかな笑顔を浮かべ、後ろに手をつく。 「苦しい。でもその時の私は、自分が苦しんでることも気付けなかった。君から手紙をもらうまでは……」 覚えのない手紙なんて、当時は開ける前に棄てるような人間だったのに。 その時は手紙から熱を感じて、急かされるように内容を確認した。余川家の子が私と同じ力を発現したこと、村は少し居づらいこと、でも外にも行きづらいこと。 この力を捨てて、いつかこの村から出たい。まだあどけない字で、そう綴られていた。 同じだ。だが今の自分は、この子よりはずっとマシな環境にいる。力も制御できるし、市内のマンションで暮らしている。近いうちに東京へ移る予定もある。 その時気付いてしまったのは……力なんて持たず、村から出ていたとしても、世界は地獄だということ。どこへ行ってもこの力を利用しようとする人間がついて回る。逃げ場所なんてどこにも存在しなくて、自分のことは自分で守らないといけない。 けど、そんなことはとてもじゃないが伝えられない。今まさに、孤独に震えているであろう彼に……外へ行っても地獄だなんて、そんな絶望を与えるような真似はできなかった。 村へ戻ることも止められてる私にできることは、その手紙に返事することだけ。幸い文通をすることは許されて、余川さんも私の手紙を必ず彼に渡してくれた。 『白希……』 初めて見た時と同じく、名前も綺麗だった。月日が経つにつれて字もみるみる上達して、姿は見えないが成長してることは確かに感じ取れた。 そして手紙から流れ込んでくる、非常に強い想い。早く外に行きたいという願いと、……私に会いたいという願い。 力や村のことなんて関係なく、外の世界を教えてほしい。純粋であたたかい想いが、人を避け続けた自分を変えた。 あの引っ込み思案そうな子が、そんなにも私に会いたがっている。狭い世界で、好きだという気持ちを最大限発信している。いつしか自分も、彼に夢中になっていた。この細い糸を決して切ってはいけない。手紙を大事に仕舞い、胸に当てて熱を感じた。 自分だけが苦しいなんて、勘違いも甚だしい。 自分よりも暗い環境で、孤独に闘っている子がいるのだから。 ────私は必ず、彼を迎えに行かないといけない。確かにこの世界はどこへ行っても苦しいけど、助けてくれる人も必ずいる。それを伝える為に。 「約束したことも忘れてるかもしれないけど、私は君を救うと決めたんだ。初めて人と深く関わりたいと思わせてくれた君と、この世界で生きる為に」 彼は心の内を全て明かし、俺の手をそっと手をとる。そして愛おしそうに、手の甲にキスをした。 俺は自分のことでいっぱいいっぱいで、文通をしてる時も彼が苦しんでることは知らなかった。 彼も必死に隠していたのかもしれない。手紙は時々酷いことを連ねてしまう。逆に、本当に伝えたいことは上手く言葉にできなかったりもする。 それでも書き続けて……彼と繋がることができて、……本当に良かった。 「俺……外へ出たら宗一さんとどこに行こうとか、色々妄想して……すごく恥ずかしい夢ばかり見てました」 膝の上に、数粒の雫が零れ落ちる。熱を持った涙だ。 悲しいわけじゃない。……嬉しいんだ。嬉しいし、愛しくて仕方ない。拒絶するどころか、俺の全てをまるごと受け入れようとしてくれた彼が。 彼の手に自分の掌を重ね、弱い力で引き寄せる。 「宗一さんと結婚したいと手紙に書いた俺は、今よりずっと単純で、……素直だったんでしょうね。そして、本気だった。今と同じく」 「ふふ。今も?」 「ええ。今、俺は本気で想ってます。貴方と結婚したい。これまでの人生を新しい色で塗り足して、貴方と幸せになりたい。……宗一さんは、俺の世界だから」

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