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第46話
宗一さんは俺の頬に流れる涙を指ですくった。
「……素敵な言葉だ。でもやっぱり、プロポーズ私からしたいんだ。……いいかな?」
もう何度も嗅いだ花の香り。俺の中にしょっちゅう現れる辛いことや悲しいことを優しく包んでくれる。
彼の掌に頬を擦り寄せ、瞼を伏せる。
「白希。私と結婚してくれ」
時々、呼吸の仕方を忘れそうになる。それは死んだように生きていたせいなのか。
それとも、彼が俺を深い水底から引き上げてくれたおかげなのか。……今さら、自分は生きていたんだと、……何度も何度も教えてくれる。
幸せになってもいいのだと。
「はい。……喜んで……っ!」
皆が当たり前のように知ってることも、俺は知らなかったりする。
誰もが幸せになる権利がある。そんなことすら、俺の頭の中には刻まれてなかった。
だけど今日、ようやく自分の手で書き連ねる。
俺も宗一さんも、幸せになるんだ。
再びベッドの中央に寄り合う。
そういえば行為の最中で長い話に入ってしまっていた。俺は大丈夫だけど、宗一さんは結構辛かっただろう。前に垂れた髪を耳にかけ、身を屈める。
「宗一さん。その……ご迷惑だったら良いんですけど」
彼の脚の膝元に手を添え、消え入りそうな声で問いかけた。
「宗一さんの……な、舐めてもよろしいですか?」
自分なりに、かなりの勇気を出して尋ねた。
ところが彼は一瞬固まり、それから可笑しそうに笑った。
「何で笑うんです?」
「ごめんごめん。ふふ……いや、何か恐る恐る言う白希が可愛くって」
もちろん俺も、自分が普通じゃないことを提案してる自覚はある。にしたって、泣くほど笑わなくてもいいのに。
涙でぬれた目元をぬぐう宗一さんを尻目に、ぐっとほぞを噛んだ。
「宗一さんが、たまにやってくださることを俺もしたくて……」
「あはは、本当に殊勝だね。って、今回に関しては的確か分からないけど……可愛い婚約者にお願いしようかな」
ちゅ、と音が鳴る。頬から彼の唇が離れたのを確認し、白希は宗一の脚の間に顔をうずめた。
一度は結ばれた紐を解き、ガウンをはだけさせる。そしてずっと猛っていた彼の性器を口に含んだ。
やる前は本当に恐る恐るだったけど、くわえてからは恐怖なんてなくて、むしろ傷つけないように気を張っていた。太くて熱い。顎が疲れそうになるけど、彼にも気持ちよくなってほしくて。
「ん……っ」
果たしてこのやり方で良いのか分からないが、宗一は時折熱のこもった声をもらした。白希の頭を優しく撫で、内腿を揺らす。
今までたくさん愛してもらったように、今度は自分も彼を愛したい。口端から唾液が零れ落ちるのも構わず、無我夢中で彼のものをしゃぶった。
その間、自分の下半身も熱くなっていくのが分かった。
思わず空いた手を伸ばしかけたが、今は彼を楽にする方が先だと思い直し、慌てて目の前の膝に手をかける。
「……白希。ありがとう、もういいよ」
「えっ。……き、気持ちよくありませんでしたか……?」
宗一さんはまだ達してない。自分の口淫が下手過ぎたかとビクビクしたが、彼はゆっくり首を横に振った。
「すごく気持ちよかった。そのままイッても良いんだけど、……やっぱり君の中に入れたい」
「……っ」
改めてお願いされると、何か猛烈に恥ずかしい。
というか、こんな綺麗な人が俺を求めてる、って思うことが恥ずかしい。嬉しいのに、これもある意味地獄だ。
白希は上体を起こし、膝にかけたシーツを自分でとった。
後ろの入り口はまだ緩い。少しいじれば、簡単に彼のものを受け入れるだろう。
ずっと物足りなそうに疼いている。俺も、彼が欲しくて仕方ないから。
「宗一さん。……俺の中にきて……」
後ろに手をつき、膝を立たせる。そうしてゆっくり脚を開いた。
あまりに卑猥な体勢に、自分でもくらくらする。さすがに引かれるかもしれない。内心とても焦ったが、彼は口端を上げ、喉を鳴らした。
「私を誘惑することばかり上手くなって。悪い子だ」
「あ……っ!」
腰を高く持ち上げられる。簡単に後ろに倒れ、彼を見上げる格好になった。
またつま先が天井に向いて、内腿の間に彼の苦しそうな顔が移る。内側の弱い部分を何度も指で擦られた時、軽くイッてしまった。
彼は俺が気持ち良くなれる部分を知り尽くしている。どうあっても勝てるわけない。
「白希。力抜いて……そう、そのまま……」
腰が密着する。熱くてぬれたものが当たった。
心臓はずっと跳ねている。でも後ろは、彼を受け入れる準備をしている。
「宗一さん……っ」
宙で空振りした手を強く握られた。未だに、この瞬間は怖くてたまらない。下手したら逃げようとしてしまうから、いっそ捕まえててほしい。
「宗一さん、どこにも行かないで……っ」
涙が滲んだ。宗一さんは俺を安心させようと、優しいキスをする。
「大丈夫。ここにいるよ」
愛おしそうに唇を吸った後、……彼は上からゆっくりと体重をかけた。
彼が中に入ってくる。
「あ……っ!!」
食べてるのに、食べられている。
一秒ごとに、体の主導権を奪われる。ぺたん、と尻が彼の太腿についた時には、もう下半身の感覚がなかった。
反り返る性器の先端を指でこねられる。そこはもう、白い愛液が淫らに零れ落ちていた。
「や、ぐりぐりしないで……っ!」
やめてほしいと手を伸ばすも、彼は真っ赤に染まったそこから手を離さない。そのまま腰を激しく動かし始めた。
「あっ、あっ、んうっ!」
腰を打ちつけられる度に身をよじる。両側を手で塞がれ、狭い空間で彼を感じた。
本当にひとつになってしまったみたいだ。彼とは元々繋がっていた。心も体も全部見透かされているみたい。
触れられる前から電流が走る。
「白希……っ。気持ちいい?」
限界まで尖った乳首をつままれ、絶叫にも近い声で泣き叫ぶ。
「いい……宗一さん、気持ちいい……っ!」
このまま二人同時にイきたい。腕を掴んでお願いすると、彼はさらに腰の動きを速めた。
激し過ぎてついていけない。抜き差しされる度に前から何かが吹き出て、彼の下腹部を汚しているのが見えた。でもそれを気にする余裕もなくて、振り落とされないようしがみつくのに必死だった。
苦しいほど気持ちいい。この快感を抱き締めたまま、彼と一緒に飛びたい。
「白希……っ!」
宗一は後ろに腰を引き、一気に奥まで突いた。その衝撃の強さに仰け反り、白希は果てた。
「……っ!」
今までだって息が止まりそうな快感に襲われていたのに、今回の絶頂はその比じゃない。余韻が強すぎて、しばらく夢でも見ているようだった。
気持ちいいなんて言葉じゃ表せられない……。
中に熱い飛沫を感じる。宗一もイッたのだと分かったが、しばらくそのまま体を投げ出していた。
「……白希、大丈夫かい?」
あまりに反応を示さない自分に心配したのか、宗一さんはゆっくり腰を離し、俺を抱き起こした。
「大……丈、夫です」
「全然大丈夫そうに見えないな……。ごめんね、やり過ぎた」
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