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第67話
上手く言えないけど、それこそ言葉では説明できない絆で結ばれている。
自身の直感を信じることも大事だ。頭で考えるのではなく、魂の赴くまま……。
ぬれた目元を指でこすり、彼の唇に吸いついた。
「宗一さん。何度でも言いたいんです」
「何を?」
「俺を迎えに来てくれて、ありがとうございます」
胸を押さえて、顔を上げる。
兄の前では心配させないよう毅然としていたけど……今は抑えられない。感謝の気持ちでいっぱいだ。
「宗一さん、少しだけ電気消してもいいですか?」
「いいけど、どうしたんだい?」
彼が頷いた為、一旦リビングを出て、また戻った。
「今なら、恥ずかしいこともできる気がしまして」
照明を落として窓をさらに開ける。外から吹き込む風が気持ちいい。
カーテンが舞い上がったのと同時に、持っていた羽織りを広げた。
「───白希」
宗一はソファから立ち上がり、息を飲む。
ここに来て初めて、白希の舞いを目にしたからだ。
夜の帳の中、月の光が紅に呼応する。静寂に溶け込む彼の動きは、いつかに見た姿と全く同じだった。
今思えば、あのとき既に心を奪われていたのかもしれない。
もうずっと昔……村の祭りの打ち合わせで、父に連れられ余川家に行ったときのこと。
退屈な会議が早く終わってほしくて、トイレに行くふりをして屋敷の中庭でぼうっとしていた。余川家の庭はよく手入れされていて、小池と周りを囲む水仙が綺麗だった。
たまに鳴くモズの声を聴きながら、縁側に戻る。その時、居間と反対側で声が聞こえた。
今日は直忠はいないはずだけど……子どもの声がする。
思わず足が進んだ。おおよその予想はついていて、こっそりと奥の広間を覗き込む。
そこにはひとりの少年がいた。舞踊の稽古中らしく、和装のまま傍にいる女性に指導をされている。相当長くやっていたのか、彼の額からは大量の汗が流れていた。それでも疲れる素振りなど微塵も見せず、むしろ涼しい顔を保っている。
凛冽なこの時期に、あそこまで汗をかくなんて。
つい、もっと間近で見たいと思ってしまった。だが稽古の邪魔をするわけにはいかないので、そっと扉の影に隠れる。
彼のことは知ってる。春日美村の伝統舞踊を教える余川家の次男。直忠の弟。
白希くん、か。
直忠とは同級生だからそれなりに話もするけど、弟は家にいる時間が多く、あまり表に出ないと有名だった。物心がつく前からそうだったから、余川夫妻が特別な育て方をしていたのは間違いない。
でも元々奇人変人が多いこの村では、特にその存在が際立つこともなかった。それよりは、力を発現した宗一の方が噂の中心にいたからだ。
これ以上村人と深い関わりを持つべきではない。そう思っていた宗一だったが、初めて見た美しい舞は目に焼き付いた。自分より歳下の少年にここまで惹かれるなんて夢にも思わなかった。
それから宗一は、余川家で行われる会合には時折参加するようになった。
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