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第68話
壮麗な屋敷に赴いても、必ずしも彼を見かけられるわけじゃなかった。やはり彼は基本人目を避けて生活していた。
あんなあどけなさの残る少年が気になる自分も、少しおかしい。頭では分かっていたけど、どうしても考えてしまう。
宗一は舞踊のことは分からないが、一目見て、彼の舞に魅了された。あれほど才能に満ちた少年も、こんな村に取り込まれて、この中で終わっていくんだろうか。途端に自分のことのように感じられて、悪寒に襲われた。
外を見ないと駄目だ。
白希の細い指先が清流のように流れる。ひとつひとつの動作を目で追いかけて、宗一は拳を握り締めた。
────現実が戻ってくる。
舞い落ちる木の葉のように床に片膝をつき、白希は俯いた。羽織りを頭までかぶった後、立ち上がろうとしたが……急にバランスを崩し、ソファの角に顔面をぶつけた。
「いった!」
「白希! だ、大丈夫!?」
つい見蕩れてしまっていたが、我に返って白希の元へ駆け寄った。彼は大丈夫と言い、笑いながら額を押さえた。
「あはは、すみません。久しぶりにずっとつま先で立ってたら吊りそうになっちゃって。それに回ってたら頭がくらくら……」
お互いに顔を見合せ、笑った。
もう十年以上前のこと……彼は知らないだろうけど、自分は時間を巻き戻している。
宗一は目を眇め、白希を抱き起こした。
「ありがとう。やっぱり、綺麗だった」
「こちらこそ、ありがとうございます。酷かったと思いますけど……」
音もないし、と彼は頬をかく。けど無音の方がより、彼の繊細な表現に集中できた。
宝物を抱き、深呼吸する。
「懐かしい匂いがする」
「この羽織りですかね? ……でも納屋に閉じこもっていた時は、この羽織りから外の香りがしてました。おばあちゃんの大切な形見だし、俺にとっては外との繋がりを思い出させてくれる宝物なんです」
これが燃えなくて本当に良かった。白希は羽織りをそっと引き寄せ、尊ぶように布を頬に寄せた。
「可愛いから、そういうことしないで」
「ええっ」
この羽織りを汚すわけにはいかないので、丁寧に彼から脱がしていく。そして机に置いた後、小さな口を塞いだ。
「白希……っ」
自分はずっと、彼に熱中していたんだ。
普段は忘れるように努めていたけど、心のどこかでずっと求めて、手に入れたいと思っていた。
だから彼から手紙が届いたとき、本当に嬉しかったんだ。
私は繋がりを求めていた……。
床にうずくまったまま、彼に口付けした。
息が荒い。わずかにはだけた襟元から、薄く色付いた肌が見え隠れする。
「宗一さん? ……その、続きは……」
恥ずかしそうに俯き、シャツを掴んでくる。そのいじらしい姿に笑いがこぼれた。
「続きはベットで。ね?」
白希の小さな手にキスする。少しわざとらしいけど、彼はいつものように、嬉しそうに笑った。
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