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第101話

「人間ってめんどくさいよな」 大我は豪快に仰け反り、ため息をつく。しかし白希に見つめられていることに気が付き、首を傾げた。 「ん? 何?」 「いえ。それって、誰もが思うことですか?」 冗談は感じられない、妙に真剣な声と表情だった。 深い意味を込めて言ったわけじゃない。言わば軽い愚痴だ。でも、それを丁寧に説明するのも何か違うような……。 色々考えた末、大我は吹き出した。 「さあね! 皆思ってんじゃないの?」 春日美村の件も想い、大我は目を細めた。 道源がこの間の暴行の証拠をおさえている為、もう村の追手が白希に手を出すことはないだろう。 これからは神経質に逃げ隠れする必要はなくなる。 「そーそー、俺は文樹と揉めたからな~。今はあいつの機嫌とるので頭いっぱいなんだ」 「そうなんですか? もしかして、それも俺のせい……」 「いやいや、そうじゃなくて……俺が悪い。村や力のことも、中途半端に教えちまってたから」 大我の言葉を聞き、白希は思料する。文樹が最後まで警察に頼らず、自分や宗一の意思を尊重してくれたのは、大我の影響が大きかったようだ。 するとやっぱり、この二人は……。 「とにかく怪我治るまでのんびりしてろよ。じゃあな」 「あ……大我さん。ありがとうございます!」 大我は最後に白希の頭に手を乗せ、店内へ戻っていった。 ほんの少しの間に、たくさんのことが起きた。 環境も関係も、目まぐるしい速さで変わっていく。その変化についていけるか不安になるけど、無理に急ぐ必要はないのかもしれない。 歩みを遅めるからこそ気付けることも、きっとあるから。 数ヶ月ぶりに飲んだブラックは、以前ほど苦く感じなかった。

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