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第11話
はっと気が付くと、目の前には見慣れない天井が見えた。
あれ、俺……。
咄嗟に身体を起こそうとして、身体が全く動かないことに驚いた。尻が痛い、腰も痛い。太ももも、ふくらはぎも背中も、ありとあらゆるところが痛い。しかも全裸でベッドの上にいる。
――そうだった。俺、総一郎さまと……。
ようやく思い出して身じろぎをした時、視界いっぱいに総一郎さまの心配そうな顔が広がった。
「大丈夫か? 痛いところは? 喉は乾いてないか?」
体中痛いとこだらけだったし、喉はからからで声も出ない。
「水……」
なんとかそれを言うと、総一郎さまが部屋の冷蔵庫から水のペットボトルを持ってきてくれた。俺の身体を抱き起こして水を飲ませる総一郎さまは、常にないくらいにかいがいしい。
まあそれはそうだろう。待ってといっても待ってもらえず、無理と言っても止まってもらえなかったのだから。
初めてだというのにめちゃくちゃにされた俺は、文句がないわけでもない。でも叱られる寸前の犬のように眉を下げる総一郎さまを見ていたら、なんだか笑いがこみ上げてきた。きっと俺が途中で意識を飛ばしたから、総一郎さまはかなり慌てたのだろうし。
そんな想像してまた笑いそうになったとき、いきなり総一郎さまが頭をガバッと下げた。
「すまない!」
「……え?」
思わず目が点になる。
あれ、今って初めて抱き合ったよな? 気持ちを確かめあったよな? それを謝るというのは……。
「もしかして、俺の身体、良くなかったですか……?」
俺が呟いた言葉を聞いて、総一郎さまが驚いたように頭をあげた。
「そんなはずないだろう! 君の身体は最高だった!!」
あまりの必死な力説につい噴き出してしまった。ふふふっと笑う俺を見て、総一郎さまはかすかに頬を緩ませたが、すぐに硬い表情に戻ってしまう。
「……俺は自分が恐ろしくなったよ。和希は初めてだというのに、我を失ってあんなに無茶をしてしまうなんて。決して君を傷つけないと誓っておきながら、自分を抑えられなかった」
ぽつぽつと話す総一郎さまの顔には、心の底から後悔から浮かんでいる。だけど俺はそんな彼が可愛くて、愛しくて、思わず頬が緩んでしまう。
「確かに最後の方は目の色が変わってちょっと怖かったですけど、俺は男ですからね。そのくらいのことで負けたりしませんよ? 体力だってあるし、それに身体だって柔じゃないです。それに……すごく気持ちよかったですし……」
そこまで言うと、ようやく総一郎さまは顔を上げてくれた。不安そうに揺れる瞳に向かって俺は笑いかける。
「俺はどんなあなたも受け入れますよ。性欲の強いところも、ちょっと強引なところだって。だってあなたは俺のこと、受け入れてくれたじゃないですか」
可愛いと、綺麗だと、この固い男の身体まるごと包んで隅々まで愛してくれた。俺だって総一郎さまのことをまるごと全部愛したい。
「和希……」
俺は総一郎さまに近づいて、頬を両手で包み込んだ。泣きそうに歪んだ唇に、ちゅうっとキスをする。
「今回は情けないところ見せちゃいましたが、次は負けませんよ! 総一郎さまのこと、とろっとろに溶かして極楽に連れていってあげますからね!」
――とろとろに溶かしたいのも、溶かされてみっともないところを見せられるのも、大好きなあなただから。
びしりと指を突き付けて宣言すると、総一郎さまは晴れやかな顔で声をあげて笑った。
(おしまい)
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