7 / 229

2

 プチ不機嫌の隼人だが、そこは鍛え抜かれた対人術で、柔らかに声を上げた。 「笹山さん、プロジェクト、って? 私が、笹山さんのチョイスした物に囲まれて、ここに住むことで、何かあるのかな?」  自分基準で棘のある言い方をしたつもりの隼人だったが、笹山にはまるで通じていなかった。  彼は弱るどころか、さらに輪をかけて目を輝かせ、熱く語り始めたのだ。 「よくぞ訊いてくれた! これはね、桐生さんの知られざる魅力を発信し、新たなファンを獲得するための、プロジェクトなんだよ!」 「知られざる魅力? 新たなファン?」 「そう。芸能活動25年を祝う一方で、僕は不安も感じてるんだ」 「私に何か、問題が?」  うん、と笹山はうなずく。  うんうん、と比呂までも、うなずく。  急に心細くなってきた、隼人だ。  そんな彼に、笹山は、その問題を突きつけた。 「桐生さんは、素晴らしい俳優だ。子役の頃は可愛いと褒められ、少年期は天才と讃えられ、青年になった今は、その実力を万人が認めている」 「良いこと尽くし、じゃないですか」 「そこが、問題なんだよ。良い人過ぎる。イケメンで、正統派で、真面目過ぎるんだ。この先、芸能活動50年を目指すには、殻を破らなきゃ!」  ぱあっ、と両腕を広げて天を衝く笹山に、比呂も続けた。

ともだちにシェアしよう!