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「ありがとう」  反射的に、隼人は比呂にお礼を言っていた。  どんな人に対しても、感謝の気持ちは忘れずに。  そして、その気持ちは必ず言葉や行動で示しなさい。  祖父が、繰り返し幼い隼人に教えてきた、家訓だった。  比呂は、ハウスキーパーなのだ。  いわば、隼人の使用人。  飲み物を出してきたからといって、わざわざ礼を伝えるほどの関係ではない。  だが隼人は、ありがとうと言わずにはいられなかった。  そしてコーヒーは、素敵に美味しかった。 「美味しいよ。良い豆を使ってるね」 「解る?」 「それに、淹れ方がとても巧い。まるで、プロのバリスタだ」 「えへへ。嬉しいな」  だが、この豆はスポンサー企業の一つ『シラカバ珈琲』からの提供だ、と比呂から説明を受けて、隼人は憂鬱になった。 「私は今後、シラカバ珈琲さんの豆でしか、コーヒーが飲めないのか……」 「だから。そんなに深刻に考えないで、って!」  知らんぷりして、こっそり他社のコーヒーを飲んじゃっても、いいじゃん。  そんな気軽な比呂の言葉に、隼人は少しだけ気持ちが上向きになった。  本当に、他者の製品をこっそり、というわけではない。  この明るい少年が傍にいると、心が軽くなるのだ。

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