11 / 229

第三章 前を向いて行こう!

 いい夢だ。  夢の中で、隼人はそう感じていた。  温かな日差しに、そよ吹く風。  緑の草原に腰をおろし、青い空に浮かぶ白い雲を、眺めていた。  そんな安らぎを満喫している隼人に、声が掛けられた。 「お昼だよ、隼人さん」  軽やかな声の主は、比呂だ。  ランチボックスを開けた中には、おむすびが一つだけ入っている。 「はい、どうぞ」  比呂は、その一つしかないおむすびを、そのまま隼人に差し出した。  隼人は黙ってそれを受け取り、手のひらで二つに分けた。 「半分こ、しよう。比呂くんも、食べて」 「ありがとう!」  瞳を輝かせて喜ぶ比呂を、隼人は微笑ましく眺めた。  いい夢だ。  もう少し、この夢を見続けていたいな……。  そんな、ほのぼのとした空気は、あろうことか現実の比呂によって破られた。 「隼人さん、起きろ!」 「ぅぐうッ!」  ベッドでまどろむ隼人の腹の上に、思いきり飛び乗って来た比呂によって消し飛んだ。

ともだちにシェアしよう!