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「芝居に、アドリブを入れることは、たまにあるが……」
最初から最後まで、台本無しで演じたことなど、ない。
再び頭を抱える隼人に、比呂はわざとらしいほど明るい声を掛けた。
「ノー台本。良いじゃない! 好きにやれる、ってことだから」
「そんな自信は、ないよ」
弱気な隼人に、比呂は頬を膨らませて見せた。
「隼人さん、自己肯定感が低すぎるよ。この国トップの、俳優の一人なんだよ?」
「……」
励ましても、溜息しか吐かない隼人だ。
しまいには、こんなことまで言い出した。
「そうだ。練習を、何回も重ねればいい」
「それは、面白みに欠けると思うな」
ファンが望むのは、真面目なイケメン俳優・桐生 隼人の、素顔だ。
芝居では決して見られない、血の通った生身の隼人を欲しているのだ。
「笹山さんも言ってたじゃん。隼人さんの知られざる魅力を発信し、新たなファンを獲得するための、プロジェクトなんだ、って」
比呂の言葉に、隼人は笹山の声を思い返した。
『良い人過ぎる。イケメンで、正統派で、真面目過ぎるんだ。この先、芸能活動50年を目指すには、殻を破らなきゃ!』
『もちろん、マンションから身の回りの生活用品まで、全て一般市民の身の丈に併せた。手を伸ばせば届く位置まで、桐生さんに下りてきてもらう』
「つまりは、私を支えてくれているファンの皆さんに、寄り添え、ということか」
「うん。まだ、ちょっと固い考えだけど、そういうこと」
自分なりの方針が定まり、少し微笑んだ隼人に、比呂は一安心した。
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