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比呂は、夢見心地だった。
静かに離れ、照れたように微笑む隼人に、すっかり魅了された。
片思いではない、恋。
一方通行ではない、愛。
それが、今ここに。
手を伸ばせばすぐ届くところに、あるのだ。
失いたくない。
しっかりと、抱きしめたい。
そんな逸る気持ちが、比呂を駆り立てた。
「ね、隼人さん。ベッドに、行こう」
「えっ」
「僕のこと、抱いて。お願い!」
「比呂くん」
少年の潤んだ眼差しに、隼人の心は揺れた。
いつもの、普段通りの『桐生 隼人』ならば、絶対に断るところだ。
知り合って間もない、まだ素性もよく解っていない人間と肌を合わせるなど、危険すぎる。
どこに、どんなトラップが、スキャンダルの火種が隠されているか知れないのだから。
だがしかし。
(でも、これは夢なんだし)
夢の一言で片づけてしまえる行動力が、今の隼人にはあった。
(せっかく良い夢を見てるんだから、もう少し楽しもう)
隼人は、比呂のボーダーシャツからのぞく鎖骨の色香を、忘れてはいなかったのだ。
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