59 / 229

4

 駐車場に停めておいた車に乗り込むと、隼人はすぐに携帯電話を取り出した。 「少し、時間をください」 「いいですよ、どうぞ」  ナビシートに座り、シートベルトを締めながら、紫織は不愛想な声だ。  彼の許しを確認し、隼人はアドレスを開いた。 (大きな賭けになるかもしれない)  そう、緊張しながら、比呂に電話を掛けていた。 『もしもし、比呂だよ! 隼人さん、お仕事キャンセルになったんだって?』 「知ってるのか、比呂くん」 『笹山さんから、連絡があったよ』 「だったら、話は早いな。すまないけど、すき焼きの準備とか、できるかなぁ?」  隼人の会話に、ナビシートの紫織は思わず手を止めた。 (桐生 隼人のマンションに、誰かいるのか?)  同棲? 恋人? もしかすると、秘密結婚? (どれが事実でも、面白いスクープになる!)  いろいろと邪な考えを巡らし始めた紫織に、隼人は気づいていた。  ただこれは、殻を破るため。  新しい自分を見出すために、通る道だと考えていた。 (そして、それには比呂くんの力が必要なんだ)  私には、彼がついていてくれる。  比呂の笑顔を胸に、隼人はステアリングをしっかりと握った。

ともだちにシェアしよう!