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駐車場に停めておいた車に乗り込むと、隼人はすぐに携帯電話を取り出した。
「少し、時間をください」
「いいですよ、どうぞ」
ナビシートに座り、シートベルトを締めながら、紫織は不愛想な声だ。
彼の許しを確認し、隼人はアドレスを開いた。
(大きな賭けになるかもしれない)
そう、緊張しながら、比呂に電話を掛けていた。
『もしもし、比呂だよ! 隼人さん、お仕事キャンセルになったんだって?』
「知ってるのか、比呂くん」
『笹山さんから、連絡があったよ』
「だったら、話は早いな。すまないけど、すき焼きの準備とか、できるかなぁ?」
隼人の会話に、ナビシートの紫織は思わず手を止めた。
(桐生 隼人のマンションに、誰かいるのか?)
同棲? 恋人? もしかすると、秘密結婚?
(どれが事実でも、面白いスクープになる!)
いろいろと邪な考えを巡らし始めた紫織に、隼人は気づいていた。
ただこれは、殻を破るため。
新しい自分を見出すために、通る道だと考えていた。
(そして、それには比呂くんの力が必要なんだ)
私には、彼がついていてくれる。
比呂の笑顔を胸に、隼人はステアリングをしっかりと握った。
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