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 若い人、って。 (桐生さんだって、30代になったばかりだ。充分、若い人なんだけどな)  ふと、本多が考えた隙に、隼人は良い笑顔を作った。  これまで老若男女問わずに、多くの人々を魅了してきた、笑顔だ。  怒気がやや抜けた本多に、隼人は柔らかな低音で、もう一押しした。 「彼のようなタイプを、私は嫌いではないですよ。むしろ、興味を引かれます」 「桐生さん、では……これまで通り、今後も弊社の取材を受けてくださいますか?」 「もちろんです。楽しみにしていますよ」  土下座に続くのではないか、というくらい、深々と本多が頭を下げたところに、紫織がやって来た。  隼人は本多に顔を上げさせ、やはり笑顔のまま、言った。 「では、本多さん。吉永さんを、借りていきます」 「人をネコみたいに言わないでください。失敬な」  相変わらず言葉の悪い紫織に、本多は猛烈に不安になった。 (もし、吉永くんが。この温厚な桐生さんを、本気で怒らせでもしたら……)  その時は、我が社の取材は今後、全て断られることに!  今からでも、私もついて行きます、と申し出たい気持ちの本多だ。  しかし、この後には、絶対に欠席できない重要会議が控えている。 「桐生さんの寛大さに、頼るしかない……」  本多は祈る気持ちで、隼人と紫織の後姿を見送った。

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