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「んぁ? うむむ……」  比呂は思いきり蹴ったつもりなのだが、紫織には大してダメージが無いらしい。  ただ彼は、丸ごと本性を現した。  大きな、真っ黒いネコの姿。  一見すると、まるでクロヒョウだ。  しかし、その尾が二股に分かれている。  紫織はやはり、猫又だったのだ。  比呂は少し怯んだが、言いたいことはハッキリ口に出した。 「お、起きろ! そして、食器を片付けるのを、手伝ってよ!」 「断る。俺は、客だぞ!」 「ね、ネコの声帯と口腔器官で、ヒトの言葉を喋らないでよ!」 「え?」  ようやく紫織は、自分が暴露してしまった姿に気が付いた。 (しまった……!)  酔っていたとはいえ、寝てしまったとはいえ、気が緩んで正体を現してしまうとは!  だが、時すでに遅し。  目の前には、こぶしを握りしめ、口をとがらせている比呂が立っている。 (ぅん?)  ただ猛烈に不満げな顔の比呂に、紫織は違和感を覚えた。 (こいつ。なぜ、俺を恐れない?)  化け猫を見て、怖がらない人間など、いやしないのに……?  

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