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「どうだ。俺は、美しいだろう?」  紫織は、ネコの姿の自分を、そう誇らしげに言った。  確かに。  つややかな、漆黒の毛皮。  ぱっちりとした、金色の瞳。  しゅっと伸びた、長い尾。 「ま、小汚いサビ猫の比呂とは、比べ物にならないな」 「うるさい! この、ナルシスト!」  比呂の反撃にひとつ笑うと、紫織はヒトの姿になった。 「俺は、この美しい姿を利用して、何不自由なく生きてきた。長い時間、人間を利用して生きてきた」 「人間を、利用して?」  怪訝な声色の隼人に、紫織はうなずいた。 「そうさ。この俺が擦り寄って喉でも鳴らせば、ヒトはたちまち虜になったものだ」  傲慢な政治家も、高名な文豪も、明晰な科学者も。  どんな人間でも紫織を抱き上げ、可愛がった。  贅沢な食事や、温かい寝床を与えた。  そして、ちょっと身を隠しただけで、おろおろして、そこらじゅうを探す。 「人間なんて、俺たちネコに尽くすように、できてるんだ」  紫織は、そう豪語した。  しかし彼にも一度だけ、命を落としかけるピンチが訪れたのだ。

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