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第二十七章 人間ってやつは!

『船を降りた後、ひいおじいさんは故郷への道で、一匹のネコと出会ったのだそうです』 『きっとネコも、お腹を空かせていたんでしょうね』 『はい。黒いネコだったそうですが、とても痩せていた、と聞いています』 『では、桐生さんのひいおじいさんは、持っていた最後の缶詰をそこで開けた、と?』 『輸送艦で配給された、小さなコンビーフの缶詰です。それを、ネコにあげたそうです』  こんな隼人の話を聞いて、過去を思い出した。  そう、紫織は話した。  しかし、と隼人は思った。 「自己申告だけでは、何とも。吉永さんが、その時のネコだったという証拠は?」  隼人にはまだ、芸能人としての警戒心が残っていた。  墓参りと称して、隼人の故郷へついて来る。  そして、同行する比呂との写真をもとに、スキャンダル記事を書く。  そういった可能性も、捨てきれないでいた。 (たとえば『桐生 隼人、熱愛!? 里帰りに恋人同伴!』とかなんとか)  不審そうな隼人の表情に、紫織は軽く体を揺すって見せた。  すると、たちまちヒトの姿は消え、そこには大きな黒猫が現れた。 「く、クロヒョウ!?」 「隼人さん、尻尾を見て。二股に、なってるでしょう」  比呂の言葉に尾を見ると、確かに二つに分かれている。  クロヒョウのような紫織が再び体を揺すると、5㎏サイズのネコに縮んだ。 「どうだ? これで、信じる気になったか?」 「吉永さん……ネコの声帯と口腔器官で、どうやってヒトの言葉を喋ってるんですか?」 「比呂と同じことを言うな!」  ともあれ、隼人は紫織の正体を、本当に知ることとなった。

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