131 / 229
第二十七章 人間ってやつは!
『船を降りた後、ひいおじいさんは故郷への道で、一匹のネコと出会ったのだそうです』
『きっとネコも、お腹を空かせていたんでしょうね』
『はい。黒いネコだったそうですが、とても痩せていた、と聞いています』
『では、桐生さんのひいおじいさんは、持っていた最後の缶詰をそこで開けた、と?』
『輸送艦で配給された、小さなコンビーフの缶詰です。それを、ネコにあげたそうです』
こんな隼人の話を聞いて、過去を思い出した。
そう、紫織は話した。
しかし、と隼人は思った。
「自己申告だけでは、何とも。吉永さんが、その時のネコだったという証拠は?」
隼人にはまだ、芸能人としての警戒心が残っていた。
墓参りと称して、隼人の故郷へついて来る。
そして、同行する比呂との写真をもとに、スキャンダル記事を書く。
そういった可能性も、捨てきれないでいた。
(たとえば『桐生 隼人、熱愛!? 里帰りに恋人同伴!』とかなんとか)
不審そうな隼人の表情に、紫織は軽く体を揺すって見せた。
すると、たちまちヒトの姿は消え、そこには大きな黒猫が現れた。
「く、クロヒョウ!?」
「隼人さん、尻尾を見て。二股に、なってるでしょう」
比呂の言葉に尾を見ると、確かに二つに分かれている。
クロヒョウのような紫織が再び体を揺すると、5㎏サイズのネコに縮んだ。
「どうだ? これで、信じる気になったか?」
「吉永さん……ネコの声帯と口腔器官で、どうやってヒトの言葉を喋ってるんですか?」
「比呂と同じことを言うな!」
ともあれ、隼人は紫織の正体を、本当に知ることとなった。
ともだちにシェアしよう!

