130 / 229

5

 湯上りでホカホカの、隼人。  そんな彼に寄り添う、比呂。  二人を前に、紫織は静かに話し始めた。 「桐生。お前の曽祖父は、今どうしてる? お元気か?」  意外な導入に、隼人は驚いた。 (てっきり、私と比呂くんの秘密を守る代わりの、対価を要求してくると思っていたのに)  だがそこは顔には出さず、ただ彼の質問に答えた。 「生きていれば、100歳はとうに越えていますよ。すでに、故人です」 「そうか……」  紫織の肩が、少し落ちたように見える。  しかし、次にはすぐに顔を上げ、目を光らせた。 「俺の提示する要求は、ただ一つ」  人差し指を立て、声を潜める様子に、隼人も比呂も緊張した。 「桐生には、しばらく仕事を休んでもらいたい。そうだな、一ヶ月くらいは」  そして、と続けた。 「俺を、墓参りに連れて行って欲しいんだ。その、ひいおじいさんの眠る墓へと」  それを聞いた比呂は、思わず叫んでいた。 「吉永さん! もしかして、隼人さんが朝に話してた、黒いネコって!」  うん、と紫織はうなずいた。 「桐生のひいおじいさんに救われた、黒いネコ。それは俺だった、というわけさ」  なんて巡り合わせだ、と隼人は驚きを隠せなかった。

ともだちにシェアしよう!