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第三十六章 温かなサヨナラ

「桐生、他人のふりするな!」 「次は、隼人さんが、オニだからね!」  鬼ごっこに盛り上がる紫織と比呂に、こんなことを言われてしまった、隼人だ。 「よし! じゃあ、行くぞ!」  張り切って、鬼ごっこに参戦した。  走って、跳んで。  思いきり、笑った。  鬼ごっこは、ただ走るだけの、シンプルな遊びだ。  だが隼人は、比呂や紫織と共に、ひたすら走った。  声を上げてげらげら笑い、びっしょりと汗をかき、ごろごろ転げ回った。  終いには、三人で草の上にひっくり返った。 「はぁ、はぁ、あぁ! もう、走れない!」 「こんなに走ったのは、久しぶりだ!」 「いやぁ、疲れた!」  しばらくは興奮が冷めないまま、明るい声でそんなことを言い合った。  やがて汗が引き、呼吸が整った頃、紫織が立ち上がった。 「さて、と。旅も終わりだな」  次に比呂も立ち上がり、笑顔を彼に向けた。 「吉永さん、スッキリした?」 「ああ。ただ一つだけ、心残りがある」  それは何でしょうか、と隼人も立ち上がった。

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