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「何か、可哀想だね……」 「幼い頃に、旅行へ出かけた記憶は、確かにあります」  隼人は3歳なりに、旅行がなぜ、ひいおじいちゃんのお葬式なんだろう、と泣いたのだ。  あの時の自分には、ヒトの生死はよく解らなかった。  ただ、優しいひいおじいちゃんには、もう二度と会えない、と聞いた時、涙がどっと溢れてきたのだ。 「俺はその頃、駆け出しのライターを気取って、スクープ探しなんかやっていた」  有名人のスキャンダルを暴き、大金をせしめ、右往左往する人間をあざ笑っていた。  俺は愚かだった、と紫織は髪を無造作に掻き上げた。  命の恩人を心の奥底へしまい込み、浮かれていたのだ。 「英介さんが息を引き取る日を、知っていれば……」  せめて、傍に居てあげることくらい、できたのに。  一人で寂しく、逝かせることは、なかったのに。  湿ってしまった紫織の声を、比呂の大声が吹き飛ばした。 「任せて! 吉永さんの願い、僕がかなえてあげるから!」  驚く隼人と紫織の真ん中で、比呂は真っ直ぐに腕を上げていた。

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