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「比呂くん。今から30年も前の話だよ?」  一ヶ月ほど時を遡るのとは、わけが違う。  隼人は、比呂を心配した。 「隼人さん。僕は、猫神様の見習いなんだよ?」  大丈夫、大丈夫、と請け合う比呂だが、紫織の声も不安げだ。 「ホントに平気か? 時間遡航は、結構な体力がいると聞くぜ?」 「いいから! 吉永さん、隼人さん、僕の手を握って!」  三人で手を繋ぎ、輪になった。  比呂が瞼を閉じて言霊を唱えると、周囲がたちまち歪み、滲んだ色彩に変わっていった。 「じゃあ、隼人さんと吉永さんは、できるだけ英介さんのことを念じて」 「思い出せば、いいのかな?」 「そう。その記憶を手掛かりに、僕が時間をたぐるから」  気が付くと、比呂を先頭に三人は大きな笹舟に乗っていた。  まるで、川の流れを遡るように、笹舟は進む。  時には、ゆっくりと。  時には、速く。  ガクンとつまずいたり、クルリと回ったり。  そしてついに、英介の亡くなる直前まで、たどり着いた。

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