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 比呂がとらえた良い匂いは、紫織の持ったトレイからだった。 「具合はどうだ。飯は、食えるか?」 「比呂くん。少しでもいいから、食べよう。ね?」  隼人に支えられて、比呂は布団の中で上半身だけ起こした。 「わぁ、美味しそう」  トレイには、焼いた魚の干物がメインで乗せてあった。  ふっくらと焚き上げた白米に、玉ねぎと油揚げの味噌汁。  ワカメの酢の物に、手羽と大根の煮物に、こんにゃくのピリ辛炒め。 「すごい。これ、誰が作ったの?」 「俺だ」 「う、ウソ!?」 「吉永さんが!?」  紫織が料理した献立は完璧で、比呂だけでなく隼人も驚いた。 「さぁ、驚いてないで。私たちも、温かいうちに食べよう」  達夫が比呂の布団の傍に座敷テーブルを出し、すぐに食卓の席が整った。 「比呂くん、食べさせてあげようか? はい、あーん」 「は、隼人さん!? 大丈夫だから!」  場は笑いに包まれたが、ふと達夫は寂し気な目をした。 「こんなに楽しいと、皆が帰ってしまった後が、寂しいなぁ」  その言葉に、紫織が姿勢を正した。 「達夫さん。私を、お傍に置いていただけないでしょうか」  

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