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「……隼人さん」
「比呂くん、どうかした?」
座敷の照明はすでに落とされ、比呂の隣には隼人の布団が敷いてある。
達夫は自室で寝起きしているのだが、先ほど何やら大声で、寝言を放った。
紫織はそれが心配で、少し様子を見てくる、と床から離れて出て行ったのだ。
隼人と比呂、二人きりになり、小声で会話が生まれていた。
「紫織さん、良かったね」
「うん。比呂くんの、おかげだよ」
「でも……。紫織さん、本当は英介さんと暮らしたかったんじゃないのかな?」
「かもしれない、ね。それでも私は、彼は良い選択をしたんだと信じるよ」
隼人は、危惧していた。
英介を見送った後、紫織は自らの命も、お終いにしてしまうのではないか。
そんな風に、恐れていたのだ。
「だけど紫織さんは、ちゃんと一歩踏み出した。前へ、未来へと進む道を選んだんだ」
「うん……そうだね」
「比呂くん」
「なに?」
比呂の言葉をすくうように、隼人の唇がその口を覆った。
優しい、柔らかい。
そして温かい、キス。
隼人と比呂は、命のぬくもりを交わし合った。
「……おやすみ、隼人さん」
「おやすみ、比呂くん」
田舎の夜は、静かだ。
やがて二人も、その静寂に溶け込むように、眠った。
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