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「宮川 秀、広谷 正弘、山崎 勲、島 誠、岡田 幸雄……。全部、私さ」
「猫神様、すごい!」
「全員、巨匠じゃないですか!」
青原は、映画に対して貪欲だった。
撮りたい画が、創りたいものが、多すぎる。
ある時は、一人二役で別の映画監督を名乗ったこともあった。
「そんなわけで、私は好きな映画を撮って、好きなように生きている。幸せさ」
そこで青原は、比呂を見た。
「比呂くんは、どうかな? 今、幸せかい?」
「僕は……幸せ、だよ。とっても」
比呂はほうじ茶の入った湯呑を、隼人に手渡した。
「だって。今の僕には、隼人さんがいるもん。隼人さんの傍に、いられるんだもん」
照れて頬を赤くした隼人だったが、青原の次の言葉に湯呑を取り落としそうになった。
「では。この先の未来は、どうかな? 大物俳優・桐生 隼人も、いずれは老いる。そして」
命尽きるのだ。
逃れようのない現実に、隼人は震撼した。
(比呂くんを置いて、私は先にこの世からいなくなるんだ!)
それでも比呂は、ネコのあやかしとして生き続けなければならない。
猫神ともなれば、さらに永劫の時を歩まねばならない。
「それでも比呂くんは、幸せかい?」
青原の、真正面からの問いかけだ。
今まさに直面している悩みに、比呂はしばらく答えられなかった。
無言で瞼を伏せ、何かに耐えるように考えていた。
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