20**年　11月22日（土） 　柔らかな光が注ぐ、花いっぱいのチャペル。家族やゲストに見守られながら、俺は最愛の旦那さまと永遠の愛を誓いました。 (…………？) 　万感の思いとは別に、俺は誓いのキスに疑念がわいていた。 　どうも唇に触れ合ってる感触がない。俺、空気とキスしてない？　 　閉じていた目をそっと開けると愛する人は確かに黒のタキシードを着て立っていた。しかし大量に降りしきる花びらのせいで顔がまるっきり見えない。そもそも、どんな顔だったか、名前さえも思い出せない。 　理想が高い俺が選んだ相手だ。高学歴、高収入、高身長の男性なのは間違いないけど……。 　晴れ渡る空が急に陰って、雨が降りだした。あっという間に土砂降りだ。旦那さまの姿もさらに霞んでいく。とうとう消えたかと思うと、なんと四人に増えた。 　俺にはどの人が俺の旦那さまか分からないし、四人の男性はそれぞれ自分だと言って俺の手を取ろうとする。気づけばどこかのワンコまで俺に飛び付いてきて、とんでもない事態になってしまった。 　とうとうその中の一人が俺の手を取った。この人だと俺も確信する。だが、顔を見るより先に、特大のウエディングベルが鳴り響いた。 　ピピピ、ピピピ、ピピピピ、 　ピピピ、ピピピ、ピピピピ、 　ピピピ、ピピピ、ピピピピ 　へんな音色。これじゃまるで目覚ましのアラームじゃん。 「…………あ゛ぁ～～～……」 　さっき寝たばかりなのに、もう朝かよ。 　なんか夢を見てた気がするけど、なんにも思い出せない……。 ◇登場人物紹介 　(飛ばしても問題なしです！) ◇木原 透　(きはら とおる) 　主人公。24才。一流大卒の大手化学企業社員・営業部の2年目。同僚に告白失敗してから会社に居づらくなり、辞めたくて婚活を始めた。 　童顔で泣き虫。同性愛者ながら恋心に素直。これまで好きな人ができるたび積極的に告白してきたが、ノンケ男性に振られてばかりで恋愛経験０。 ◇鶴矢 巡　(つるや めぐる) 　透が登録した結婚相談所のスタッフで透の担当となる。年齢不詳の美形男子。非常に仕事熱心で透からの相談は２４時間いつでも大歓迎！　透のことなら何でも知りたいと、婚活に限らずどのような話でも喜んで聞いてくれる。とにかく透に優しくて、過剰なくらい褒めちぎる。 ◇雨宮 誘　(あまみや ゆう) 　透の大学の同期で親友。24歳。お気楽貧乏フリーターだが、大学在学中に司法試験に合格した天才でもある。その頃に透に告白された過去もあるが断っていて、その後は気楽な付き合いの友人として透の尻にしかれてきた。透の婚活を反対し、代わりに自分が透と結婚すると言い出す。 ◇墨谷 文人　(すみたに ふみと) 　透が所属する営業部の課長。28才。以前は年の近い先輩として透に親切だったが、透が同僚男性に告白したことが部内に広まって以来、異常に透に厳しくなる。しかも昇進し現在は透の直属の上司。透が会社を辞めたい理由・一位の男。 ◇イニシャルA.S 　婚活アプリに登録したばかりの透に「一目惚れしました」「結婚してください」と、驚きのメッセージを送ってきた男性。プロフィールによると、32才、年収3000万円、東大卒、元官僚で法律事務所次期代表。その上容姿が透好みのイケメンと非の打ち所がない。最初こそ警戒した透に無視されたが、誠意が伝わって透と会う約束を交わす。