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第3話

 翌日。いつもなら土曜日はダラダラしてばかりの俺だが、いてもたってもいられずに、昨日登録したばかりの結婚相談所『エトワール』の新宿・同性婚専門カウンターにソワソワと座っていた。  インテリアがすごく可愛い。ウエディングを意識しているらしく、純白のフロアに、輝くガラスのシャンデリア。家具はロマンチックなアンティーク調で、生花が贅沢に飾られて、花の香りが漂っている。数多ある結婚相談所の中で今ここが一番人気だと知って登録したが、その通りで、他の席もほぼ埋まっているようだ。  『エトワール』ではアプリからの登録だけでは正式な入会とは見なされず、登録したプロフィールに嘘がないことを証明する、身分証や卒業証明書、源泉徴収書などけっこうな数の書類の提出が必要だった。書類の準備に朝から大変だったけど、無事にエトワールに持ち込んで確認完了。これでアプリの俺のプロフィール欄に『本人確認済み』のマークがついた。  確認したところで、それまで担当してくれていたスタッフから、別のスタッフに交代すると説明を受けた。後ろに控えていた男性スタッフが入れ替りで俺の前に立つ。胸の名札には鶴矢 巡(つるや めぐる)"と書いてある。 「初めまして。木原 透様でいらっしゃいますね」 「は、はい、そうですけど……」  緊張する俺に、鶴矢さんはにこっと微笑んだ。日本人離れした甘い顔立ちをしてる。色白の肌に、ふんわりと柔らかくて明るい色の髪。それに透き通った青い瞳をして、まるで童話の中の王子様だ。 「弊社のエグゼクティブ会員に申し込みいただきありがとうございます。私が木原様の担当をさせていただきます、鶴矢です」  エグゼクティブ会員とは、基本料金に加えてオプション料金を払ってなれる上級会員のことだ。  月額7万と高額だが、様々な特典がついてくるし年収一千万以上や医師・モデルなど、人気の高い職業の人を優先的に紹介してもらえる。そこで、セレブ婚を目指す俺は、年内の結婚を誓ってエグゼクティブ会員になった。  そんなエグゼクティブ会員の特典の一つ、専任のアドバイザーがこの鶴矢さん。会員が婚活について本音で話せるように、基本的に会員と同性・同年代のアドバイザーが選ばれるそうで、鶴矢さんは俺より少し年上に見えるけど店舗の他のスタッフの中では一番若そうな感じだ。  鶴矢さんは手に持っていたタブレット端末をテーブルに置いて、俺の正面に腰かけた。 「木原様がご希望通りのご成婚のためこれから精一杯サポートいたしますので、どうかよろしくお願いいたします」 「こ、こちらこそ、よろしくお願いします……」  鶴矢さんの丁寧なお辞儀に合わせて俺も深々と頭を下げた。 「それではまず、婚活の流れをご説明いたします。そのあとカウンセリングで詳しくお話を伺わせていただきたいと思います」 「はい、よろしくお願いします……」  真正面から目を合わせて思わず息をのんだ。ヤバイ。近くで見ると余計に、目眩がするほど綺麗な人だ。 「こちらをご覧下さい……」  タブレットを向けられる。俺も液晶に注意を向けたが、すぐに鶴矢さんに視線を戻してしまった。伏せた睫毛が長い。こんな素敵な人の恋愛や結婚は、きっと俺には想像がつかないくらい素敵なんだろうな。なんて思っていた。とりあえず、長い指に結婚指輪は見当たらないけど。 「それで木原様は、どんな男性がお好みですか?」  不意に鶴矢さんが視線を俺に向けた。いけない。説明をまるで聞いていなかった。 「えっ、えっと、えっと……」  俺とは別に、鶴矢さんの方でも俺に合う男性を探してくれるらしい。  俺が結婚相手に求めるのは──、  1.専業主夫にしてもらうこと  2.年収1500万以上であること  3.ルックスが良いこと  1と2は必須で、3はあくまでも希望だが、かなり重要だ。俺はイケメンに弱い。性格よりもだんぜん外見重視。幼稚園のころからいつもクラスで一番カッコいい男子を好きになった。しかし、どの恋も決して報われることなく振られ続けて、24歳の今まで恋愛経験ゼロ。この婚活で人生初のモテを経験することになった。 「なるほど、よく分かりました」  鶴矢さんはとても熱心に俺の話を聞いてくれた。 「俺の結婚相手、見つかりそうですか……?」  理想が高すぎるって言われる覚悟はしてきたけど、その通りだったらどうしよう。123どの条件も下げたくない。  でも杞憂だったようだ。 「はい。条件に何ら問題ありません。私にお任せください!」 「良かった~」  さすが業界ナンバーワン。俺なんかでも、なんとかなりそう。

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