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第5話 幼馴染で映画の予告

「あ!」  拓斗の大きな声に春樹はびくっと身をすくめた。 「なに?なに?」 「予告編飛ばさないで!」  いつもは率先してDVDの予告編をすっ飛ばす拓斗が春樹からリモコンを奪いとると通常再生に戻した。 「なにか気になる予告でも入ってるのか?」 「うん! ほら始まった」  画面は一面赤になり、液体が垂れるように徐々に画面下部へ流れて消えていき、深い森の中の一軒の洋館が映し出された。  叫び声、振り下ろされるナイフ、飛び散る血しぶき、 春樹は真っ青になる。 「ホラーじゃないか!」 「ホラーだよ」 「やめろよ!俺がホラーダメなの知ってるだろ!」 「映画じゃないからいいでしょ。予告編だよ」 「予告編でもだめだ!早く消せよ!」 「やだ」 「消して!消してください!」 「もう、しょうがないなあ」  拓斗はにやにやしながら予告編をスキップする。 「あーあ。楽しみにしてたのにな、予告編」 「そんなの本編を見に行けばいいだろ」 「付き合ってくれるの?」 「なんでだよ!行かねーよ!」 「だよね。だから予告編、楽しみだったんだけど」 「意味わかんねー」 「君が恐がるところが見られると思って、楽しみにしてたんだけどな」  春樹は顔を真っ赤にして両手をぶるぶると震わせる。 「おまえ、趣味悪いぞ!俺で遊ぶな!」 「そうだ、今の映画のあらすじなんだけど、古い洋館を遺産として相続した女の子が……」 「わあああ!聞こえねー!何も聞こえねー―!」  両手で耳をふさいで叫ぶ春樹。その手を引き剥がそうとする拓斗。本編が始まったまま放置されたDVD。いつも通りの幸せなリビングに少しの絶叫をスパイスに、日々は淡々と過ぎていく。

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