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第3話 満たされない花瓶は…

  「お水のお代わりを、お持ち致ししました」  俺は、水の入れられたウォーターピッチャーを見て身体を強ばらせた。  「お客様? 大丈夫ですか? お顔の色が、優れないようですが…」  仕事の打ち合わせで、訪れた仕事場近くの喫茶店。  ウッド系の店内は、明るくモダンで、どこか懐かしいような…  古いモノクロの映画やドラマにでも出できそうな物静かな雰囲気にクラシックのBGMが、気持ち落ち着かせてくれている。  けれど、俺の気分までは落ち着かせてはくれなかった。  「で…あのデザインの方なんですけど、話し合った結果、最初のデザイン案で…この間、お渡しした石をはめ込んください」  「分かりました」  優しく愛想を振り撒く様にしてみる。  正直に言って、今の状況は辛すぎる。  顔色が悪いのは、俺が全部悪かったからだ。  今更、思い出しては悔やんでいる。  それでも職業柄、笑顔でいないとならない時がある。  基本的にスケッチブックにシルバーアクセのデザイン案を描き出して選んでもらい。それを元に作り上げ仕上げたモノが、誰かの手に渡っていく。  そしてまた…  新しいモノを、作り上げる。  アイディアや良い案を練る。  日々、その繰返し。   この仕事が、性に合っているし夢でもあったから学業の傍ら続けられている。  元々、こう言う作り上げる過程や工程が、好きなんだと思う。    ガキの頃から近所の人が、自宅ガレージで開いていたクラフト工房に入り浸っていただけのことはある……  それに元から誰かと話す事は、好きだったし仕事柄人と接するのも、一つも苦ではない。  街中で別な店を偵察がてら見に行ったりすると、どれを買うか迷ってそうな子に…  さりげなく。  アドバイスなんかして、それに返してくれるとか子は、略警戒心なんってなく近づけて、その気にさせられれば、こちらのもんだって、分かっててやってきた。  ってか、恋人居るのに俺最低な事してきたよな…  「そりゃ…飽きられるわなぁ…」    別れて、くっついて、また別れてを何度も繰返してきた俺とセリ。    そんな感じで、手元に残ったのは…  俺が、アイツに贈ろうと作った。  この世にって言うのは、大袈裟だけど…  たった1つになるはずの指輪だった。  当たり前だけど、持ち主の手に渡ることもなく俺同様に拒否られた指輪。  小箱に納められた指輪には、赤いガーネットを、埋め込んだ。  ソレを、あの日から俺は、上着やズボンのポケットに入れて持ち歩くことが、習慣化してきている。  惨めったらしい。  俺も、そう思う。    そう思われても、当然だ。  でも、そうなる様に仕向けたのは、俺だって事は自覚している。  後悔も、今更だ。  まさか、あの日セリが、居るとは思ってなくて、ウッカリ鉢合わせしまった。  別に何かある訳じゃなくて、あの連れとは、昔からの友人の一人で、相談にのってもらっていただけだ。  セリが、思ったそう言う類のヤツじゃない。    前に浮気したのは、事実だけど…    嫌になるほど、仲間内から責められた。  “ アンタ…何考えてるの? あんなにいいコ ”  “ あれじゃねぇ? あんまりにも、いいコ過ぎなコと、付き合えたから。調子に乗ってたんじゃねぇ? ”  “ ホント。それ。自業自得ってやつな… ”  “ そのうち愛想尽かされちゃうから… ”  確かに調子になってた…  最初は、いい加減に聞き流してたぐらいだ。  そりゃそうだ。  セリ自身が、俺を責めなかったから。  確かに態度は、悪くなった。  口もロクに聞いてくれなかった。    いや…怒ってるのは、分かるけど…  なんかこう。  もう少し。  ヤキモチみたいな…  嫉妬みたいな感情表現が、あってもよくねぇ?  浮気した事に怒るだけ…    それも、俺に対してだけ。  浮気相手に、嫉妬するとこはない。  俺に対して、取られたくないとか…  俺を取られそうになって、悔しいとか…  無いのかよ?  俺は、セリにどう思われてんだ?  それが、切っ掛けだった。  セリの本心が、知りたい。  セリの中にある俺の価値を、知りたい。  そう思いつつも、独占欲が増してった。  アイツを繋ぎ止めるには…  そんな中途半端な気持ちが、溢れて焦り過ぎた結果が…  これだ…    今からになると、約1ヶ月前のあの日、昼頃まで通じていたセリのスマホから急に返信も、来なくなり。いつの間にかに、電話も繋がらなくなっていて…  散々、街中を探し回った俺は疲れ果てて、2人で住んでいたような俺の部屋にフラフラになりながら辿り着いた。 2   マンションの部屋の鍵は、掛けられていて室内も、外から見る範囲は真っ暗。   一目で誰も居ない事が、分かった。  「ったく。どこに行ったんだよ」    そんな呟きが、虚しく冷たい春風に薄まった。  相変わらず繋がらないスマホの呼び出し音にイラつきながら。  例の指輪が、入れられた小箱を、上着のポケットから取り出した。  鍵を開けて室内に入る。   「…なぁ…? ここにも、居ないのか?」  声を張上げたけど、他に人の気配はなく。  電化製品の微妙に響く音が、低く鳴っていた。  電気を付けるよりも先に、喉がカラカラな俺は、唯一飲めるレモングラスとミントのお茶が飲みたくて…  やっとの思いで冷蔵庫の前に立った。  確か…冷蔵庫の中には、連絡の繋がらないセリお手製のお茶が、入っていたはず。  今朝も、メッセージに…  『新しく作って置いたから。飲んでね』  「分かった」  『でも、材料ないから。これが、最後だからね』    って、言ってた。    冷蔵庫を開けた瞬間、俺の目に入ったのは、レモングラスとミントで作られたお茶が、入れられたウォーターピッチャーの中に沈められたセリのスマホ。  喉の渇きなんって、瞬時に忘れ慌ててシンクにピッチャーの水を投げ捨てスマホを拾い上げた。  水没したスマホは、よく見ると叩き付けたのか、高いところから落としたのか、強い衝撃でも受けたみたいなヒビで、画面は粉々で、電源も入らなかった。  防水のスマホでも、これたけヒビ割れていたら。  水に漬けられる前から壊れていたんだろう…  愕然とするそんな言葉じゃなくて、突き落とされた…   そんな言葉が、胸にグサリと突き刺さる。  その場にしゃがみ込んでから。どれぐらい時間が経ったのか…  喉の渇きを、また思い出した。   いつもの…    あのお茶が、飲みたい。  立っている感覚が、上手くつかめず2人掛けのテーブルに片手を付きながら冷蔵庫の扉を開ける。  そこにあったのは、なんの変哲もない水しかなくて…  逆に目にとまったのは、空のウォーターピッチャー。    『でも、材料ないから。これが、最後だからね』    空耳に近い声が、聞こえた。  壊れたスマホに、水に濡れたシンク。  戻らない。  何もかも、全部。  床に転がった指輪の入った小箱を、投げ付けてやろうかと、思うものの。  それは何か違う気がして、崩れ落ちるしか出来なかった。  何で、こうなった?  って、思いつつも…  俺が自分で、そうなる様に仕向けたんだろが…  あんなにセリを、傷付けて…  アイツが、待っててくれるなんってさぁ…  勝手に思い込んで、  勝手に全部、失って…  自業自得だ。  それから俺は、床に座り込んだまはま少し休んだけど、全く休めなくて、寝れもしなくて。  目を閉じると幻影みたいに、いつものセリの姿が見えて、微かに声も聞こえてくる気がして自分の部屋にも関わらず。  そこに居ることが、できなくなり夜が、明けたと同時にアイツを探しに部屋を出た。  それで、丸1日走り回って分かった事があった。  俺はアイツが、1週間前に今のバイト先を変えたこも、辞めたことを知らなかった。  それで、そのまま大学に顔を出したら。  「1週間くらい前に来て…暫く休むって、言ってたらしいよ」と、返ってきた。  そう言えば、セリの姿は部屋と店でしか見てない。  じゃ…自分の家の方に居たのか?  暫く休むって、どれぐらいだよ?    それで色々なヤツに聞きまくったけど…  「アンタが、分からないのに、私達が分かる訳ないじゃん」  「ホント。何聞いてんだよ?」  「そう…だな…」  「って、スマホ繋がらないんだけど…どうしたの?」  セリのスマホは、多分壊れたまま俺の部屋のシンクの中にまだある。  「……さぁ…壊れたとか、調子悪いって…」  「あぁ~それで、居場所を皆に聞きまくってんの?」  俺は、苦笑した。  その日からセリが、ドコに居るのかサッパリ分からなくなった。  自宅って場所も、家族と一緒に住んでいるからって、大雑把に聞き流してた。  セリは、もしかすると俺を許せない気持ちで、昨日を迎えたのかも知れない。  その間、俺は自分の事ばかり考えてた。  セリの言いたいことや、思っている事にも、気付かなかった。  それこそ…  今、ドコで何をしているのかも…  この期に及んで、何も知らないことに気付いたんだ。  一緒に居るから。  何となく知った気でいただけ…  普段からいい加減な俺は、セリの事なら何でも知っている気になって居たらしい。  だから最初、繋がらないって分かった時点でも、大丈夫。部屋に居るとか、バイト先に居るんだろうとか安易に考えてた。  それに昨日の俺は、浮かれていた。  やっと仕上げることが出来たシルバーの指輪を、いつもよりも慎重に丁寧に磨き上げてセリに渡せるって、朝からソワソワと落ち着かなかった。  それもあって朝は、アイツの姿を認識してもアイツの顔までは、認識できなかった。  今にして思えば、セリの顔しばらく見てなかったような気もする……  実を言うと、前の日に一緒だった女性の事を詳しく言うと、俺の描いたアクセの最終的に見極めに来てもらっただけだ。  高校生の頃に初めて作ったシルバーアクセを、皆に拡めてくれた友達の一人。  抱き付いて見えたのは、単なる彼女が、根っからのビビリでアパートの通路の薄暗さに怯えていただけ…   少し離れたコインパーキングにその子の彼氏が、車停めて来る途中だった。  俺は、俺であの時指輪の事を、悟られないようにしたくて…  あんな態度をとってしまった。     カッコつけないで、その場で渡していたら。  そう思わずにいられない…… 3   それから数カ月後の仕事場にて。  「まぁ…そう言うことね…」  話し相手は、俺がシルバーアクセの装飾品として使っている石やカットガラスを、仕入れさせてくれる業者の女性で、ハナと言う年上の顔見知りでもあるヤツだった。  業務内容とは別に、例の話に付いて話掛けられていた。  セリに贈るはずだった指輪にはめ込んだ赤い石のガーネットを、進めてくれたのは彼女だ。   彼女は、自分で仕入れた石を加工したりしていて、それらをパーツてして俺は、取り引きさせてもらっている。  「…そりゃ~っ、アサキが悪いわ…いつまでも、待ってくれてる? 今の世の中、バカやったら親でも、待ってくれねぇーっうの!」  「…………」  「探さないで、あげたら?」  「無理だ…」  「えっ~っ…即答かよ! あぁ…アンタみたいなタイプの輩が、ストーカーになるよ! 諦めろ…」  「別に、俺は…」  ハナは、スッと整った鼻先で笑う。  しかも、美人だから余計に鼻に付く。   「直接会って、別れ話でもすんの? 振られる理由並べられたら。アンタ帰って来る途中で、病み死にそうよ。カレも、それを察して何も言わず。自分には、その気がないって意思表示だったんじゃないの?」  「俺の気持ちは!」  「そんなの知ったこっちゃねぇーわ!  言っとくけど、私は、アンタを養護する気はない!」  ガラスケースのカウンターと商品棚にコンクリート打ちっぱなしの内装の中にハナが、吸う外国製だと言うチョコのような甘い香りのするタバコの煙が、白く漂う。  小さなフロアーだけど、通りに面していて横断歩道寄りの為かショーウィンドウって程に広くはないけど、店の雰囲気を覗いて行く人も多い。  「アンタさぁ…今、ドコで寝泊まりしてるの?」  「ここ…店の奥が、小さいけど居住スペースになってるだろ? 今はそこで暮らしてる…」  「アパートは?」  「解約した…」  意外そうな顔の女は、目を大きく見開く。  別に住めないこともなかった。  でも、セリの気配を探そうとしている自分に対して、待ったを掛けたのも、また自分だ…  そこに居れば、あの時のままだから。  側に居なくても、側に居てくれそうな気がして…  何日も、寝られなかった。  それが祟って、この仕事場で倒れたのを見付けてくれたのが…  「本当その時は、ビビったわ…カウンターの裏でひっくり返っているんだもん…精神的な過労? だっけ? 生言ってるわ…」  「うん…」  「未練なかったの? その部屋に?」  「あったに決まってんだろ?」  でも俺は、あの部屋からアイツの荷物が無くなっていることにも、気付かなかったんだ。  「言い訳は、確か…自分の事だけで、手一杯だったけか?…」  「……自覚してる…」  業者の女は、ニヤニヤと笑いながら。  2本目のタバコのフィルターを軽く唇ではさみながら火を付け商品類が、入れられたバッグではなく。  いつも、持ち歩いている方のバッグから石を取り出した。  ガラスケースのカウンターにコツンと置いたのは、丸く磨かれた。  「ガーデンクォーツ?」  「和名、庭園水晶…」  透明な水晶の中に様々な鉱物が、内包されたモノを、大雑把にガーデンクォーツと表現される。  緑泥石が見られるクォーツは、主にモスアゲードや苔水晶や草入り水晶などと、呼ばれていて神秘的と言うか、本当にそこには庭のような草原のような光景が、広がって見えていている…  「本当不思議よね。これ私の私物でお気に入りのモノよ。それに結構、人気あるのよね…ガーデンクォーツって…」  「手に…取っていいの?」  「どうぞ…」  「私には、ガーデンクォーツって、箱庭に見えるのよね…アナタは、無意識にこのガーデンクォーツみたいな透明な目には、見えない敷居で、カレを囲って閉じ込めていたのかもね…」  そんな事はないと、言おうとした時。  俺は、たまに寂しそうに笑っていたセリの顔が重なった。  「今までは、カレがアナタを許していたのよ。傷付きながらも、自分が我慢をすれば、アナタは戻ってくるって…」  「俺が、戻って…」  ハナは、薄く笑い煙草の煙を細く長く吐き出した。  「傷付かない石なんってないわ。試したりなんってするからよ。自業自得…」    「……………」  「そうね。私の見た目で言うと、カレは、このデザートローズって所かしら?」  ハナはそう言って、またバッグから布に包んだ何かを取り出した。  俺は、耳慣れない石の名にカノジョの手元を見た。  手の平に乗せられた石を、テーブルに優しく置く。  「…これ。砂漠の薔薇だろ?」  花の蕾が咲ききる途中…と、言うか。  咲いた後と言うか、薄茶色やモノによっては、くすんだピンク掛かった色味で丸くて小さい。  世界中の砂漠で採れる鉱物とされている。  加工に向かないからか、その鉱物名に俺は、ピンと来なかった。  デザートローズの石言葉は、願いを叶える。  「モース硬度は、知ってる?」  「確か…2」  加工に向かないと言ったように、少しの衝撃でも、粉になってしまう程々、とても繊細でもろい石だ。  「アイツが?」  「何驚いてんのよ? カレの持ってる感情が、ダイヤモンド並みの固さだとも、思ってた?」   ハナは、1粒のダイヤモンドが、あしらわれた首元のネックレスのチェーンごと指先に絡め取った。  「思ってた…って言われても…」  もっとも、固い硬度を持つとされるダイヤモンドも、間違った圧の掛け方をすれば、簡単に割れる!   これは、常識だと叫んだ。  「割れても、ダイヤモンドには変わりはなくて、キラキラ光ることはできるけど、人を輝かせる元のダイヤモンドになれない」  俺は、言葉を見失う。  「ダイヤモンドの石言葉、知ってる?」    純潔、純愛、永遠の絆  「どれも、アンタには足りなかったわね。それとアンタが、贈ろうとした指輪のガーネットは、真実よ。どのみち上手くいかなかったと思うわ…」  俺、アイツに指輪を、受け取って欲しくて、いい加減な付き合いとか、曖昧なヤツらと別れた。  「それでも、アイツの…」  気持ちが、知りたくて…  「何度も言うけど、試す方が悪い。その試しに付き合ってくれたコとも、カレなんかあったんでしょ?」  「それは…取り敢えず。解決したはず…」  「そう言う事にしといてあげる。他の方とは、後腐れなく終われたって聴いたけど、本当にそれで自分を、誠実に見せられた? 」  「……………」  「動く不誠実めって所かしらね?」  ハナは、笑い転げる勢いで爆笑した。   「それも、アレも、これも、カレは、見透かしていたのかもね」  「はぁ?」  「だって、何回も何回も、ダブルブッキングやら、街中で堂々とイチャ付きながらとか、そう言う場所に入って行くとことか、目撃されていたんでしょ? この最低男が…少しは、反省しな!」  「…あれは、最初の数人だけだ……」  「本当かしらね? ねぇ…私に愚痴れば、慰めてくれるとか思った? その考えから改めな。もう少し苦しみなさいよ。カレが苦しんだ分。それ以上に苦しみなさい。カレは、ひたすら1人で苦しんだはずなんだから…」  何も言い返せない。  「結局、アンタは、他人から。恋人に出ていかれてしまった可哀想な自分って、思われたいんじゃないの?」  「…そんなことは…」  「私は、アンタらには同情なんってしない。アンタは、カレにずっと不誠実だった。カレは、アンタに何も言わずにきちんと別れを告げなかった…グダグタ言っててもこなかった事を考えると、無駄って思われていたのかもね。って、アンタら二人のことは、こうやって簡単に説明できるのよ」  ハナは、2本目タバコを吸い終え灰皿にそのタバコを押し付けて火を消した。  「じゃ…他にも周らないとならないから。行くわね……って…」  そう言いながらハナは、バッグからチラシを取り出しショーケースの上に置いた。    「今度のデパートでやる企画展の催し物にアンタも、参加してくれない? アシスタントとして…」  「へぇ…」  俺は、チラシを手に取る。  「気分転換って感じに手伝いに来てよ…」  「あぁ…考えとく…」  ハナは、商品の入れられた大きめのバッグを背負い店を出て行く準備をする。  相談できて良かったと思える反面、痛い所を突かれまくっている感覚だ。  俺は、このままセリを忘れるべきなのか…  探すべきなのか…  いや、  忘れるべきって何だよ。  探すべきって何?  俺は、セリを探してどうしたいんだ?  この指輪を、渡すつもりなのか?  それとも、きっぱりと別れた方が、いいのか?  俺は、どうすればいい。   店の窓から眺める夕暮れの街並みが、これ程までに寂しく目に写るとか…  苦しいな…    「ねぇ…最後に1つ良い?」  「…なんだよ…」  「ガーネットの指輪、何のために作って、贈ろうとしたの?」    店の入口に立ちのドアノブに手を掛けたハナは、スーッと静かに振り返る。  「何のって…」  「今更だけど、指輪ってそう簡単に贈るモノじゃないし…」  店の窓ガラス越しに見える交差点では、赤信号で止まって居た人の波みが、慌ただしく歩き出す。  指輪を贈る理由。  「…一緒に…居たかったから…」  「そう…」  ドアが、少し開く。  「お互いに、本音を出すのが、少し遅すぎたのかもね…」  一人取り残されシーンとなる店内。  そんなのは、分かってる。  分かってるんだ。  だからさぁ…    ドコに行ったんだよ。  そのフレーズを、今はただ繰返している。           

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