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第10話 これからも…
12月になって街では、よくクリスマスソングが流れるようになった。
お客さんの来店時に店のドアが開くと、そんな曲が微かに聞こえてきて自然と温かい気持ちになったりした。
店内に流してあるローカルのラジオからも、クリスマスソングが流れてくる。
そんなクリスマス当日は、店番をしつつ…
店内に飾った白色のツリーに映える青色のイルミネーションを、ボンヤリと眺めていた。
プレゼント用にと店を訪れてくれるお客様や問い合わせで、忙しかったりで…
次第に暮れていく外に街路樹のイルミネーションが少しつづ輝いていくのを、1人ワクワクしながら見上げていた。
時刻は、6時過ぎ。
営業時間は、7時までだけど…
通りを埋め尽くしてるのは、イルミネーションを見に来る人の方が多いらしい。
「ねぇ…アサキ?」
僕は、作業場に向かって声を掛けた。
「…ん。何?…」
上の空みたいに生返事が、作業場から聞こえてくる。
「お店…まだ開けとくの?」
「う~ん…どうすっかな…客足とか、どんな感じ?」
「もう殆ど、イルミネーションを見に来てるお客さんの方が多いよ」
「だろうな…ここのイルミネーションは、有名だし…去年も、そうだったもんな…」
アサキは、休憩室から折り畳み椅子を持ってきて僕の後ろに座った。
顎を肩に乗っけるみたいに同じ目線で、店の窓枠に飾ったクリスマスのオーナメント越しにイルミネーションを見上げる。
「キレイだな…いや…毎日店から眺めてんだからは改めて綺麗も変か?」
「うん…でもキレイは、キレイで良いんじゃない?」
店の照明を、少し薄暗くセットしてあるから街路樹の光が、眩しいぐらいだ。
「……でもまぁ…今日はクリスマスだし通常通り7時になったら閉めようか…」
「うん。分かった」
「じゃ…俺は、明日までに仕上げるのがあるから。後は、よろしくな…」
「ん? うん…」
何だろう?
大袈裟な感じに作業場に戻っていくみたいな…
まぁ…いいけど…
この2ヶ月間、クリスマスプレゼントのオーダーが、立て続けだったからなぁ…
疲れてるのかも……
そうだ。
夕飯は、ポトフみたいなスープにでもしようかな…
寒いと温かい物を、食べたくなるよね?
でも、今からだとじゃがいもの皮剥いて……煮込むまで時間がかかるよね。
アサキは、ジャガイモが少し溶けた感じが好きなんだよね…
あぁ…昼間のうちに、じゃがいもとか煮込んでおけば良かった…
キッチンが、作業場と少しの仕切りで、別けてるだけだから…
仕事の邪魔したくないし…
あるものでってなると、市販のスープしかない。
せっかくのクリスマスだもん。
ケーキとか…チキン……より唐揚げが食べたいなぁ…
近くのお肉やさんの唐揚げ美味しいんだよな…
「………………」
ダメだ。
店番に集中しないと…
たまにショーウィンドウを覗いてくれる人も居るし気は、抜けない。
そうこうしているうちに6時半を、過ぎてしまった。
こんな日に外食なんって、混んでそうだし…
頼むにしろ。
時間掛かりそう。
またボンヤリと外を、眺めていると…
バンッと、裏口のドアを蹴るような音が店内に響いた。
ビックリしながら裏口に行くと…
大荷物を抱えたアサキが、息を切らして立っていた。
「あっ……ワリーッ…足で開けようとしたら…おもいっきり蹴った…」
バツが悪そうに笑うアサキが、持っていた紙袋を落としそうになるから僕は、慌てて落ちる寸前のそれを受け止めると、何やらいい匂いが、鼻に充満してくる。
「これ…僕が好きなお肉屋の?」
「うん。唐揚げな。クリスマスに食うごちそう的な?」
アサキの話だと、お肉屋の唐揚げやその他の惣菜は、昼間のうちに色々な店に電話を掛けて取り置きしてもらったり頼んでおいたらしい。
勿論ケーキもあって知らぬ間に冷蔵庫の中に箱ごと入って居たのは、さすがにビックリした。
「いつの間に?」
「昼休み中にだよ…セリは、冬の飲み物はホットが多いし。冷たいのは飲まないし冷蔵庫開けるのは、料理の時だけになるから。バレない自信があった!」
確かに…
今の時期は、ホットで飲むしレモングラスとハーブのお茶は、その都度淹れるから。
ご飯を作るときにしか、冷蔵庫ひらいてないかも……
本当にアサキってば、僕の行動よく見てるなぁ…
変に感心しちゃうよ。
「…で、ケーキは、苺のカップケーキな。さすがに2人でワンホールは、食えないから。でもサービスでサンタとトナカイ乗っけてもらったから好きな方食って良いよ!」
キッチン横の冷蔵庫から白い箱を取り出しテーブルに置くと、丸いドーム状になっているケーキを取り出してくれた。
クリームの上に、苺とサンタとトナカイが乗かっている可愛らしい2つのカップケーキ。
「アサキ…お惣菜も…全部、今買い物に行ってたの?」
「…そうだけど? 今日はクリスマスだろ?」
「そうだね」
「…なので、オーナー権限で今日は、もう店を閉めます」
大好きな唐揚げに、大き目に切られたピザに大盛りのポテサラと串カツってチョイスには、少し笑ったけど…
「食いたかったんだよ。ここの肉屋の串カツ……うまいから」
「僕も、好きだよ」
ケーキの準備を終わらせてから。
材料を発注するふりをして、お肉屋さんや惣菜屋さんに電話を掛けたり。
時間を見計らって、惣菜を買ってきたとアサキは、食べながら話してくれた。
僕は、アサキが発注の電話する時とか、作業場にこもる時とか、仕上げがあるからと言われれば、近寄らないようにしてるからなぁ…
「過保護なぐらい僕のこと見過ぎでしょ?」
「自覚してる」
ケーキに小さいローソク立てて…
2人してフーッて消すのは、少し子供じみているけど…
2人だから。
出来るみたいな?
ニッコリ笑い合って、互いの名前を呼び合えるこの距離が…
最高に嬉しい。
また来年のクリスマスも、こうやって迎えられたら…
尚更、嬉しいに決まってる。
終わり。
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