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魔導士カイラ

 カッ、カッ……  カッカッカッカッ……  とある宿屋の一室にて。  さらさらとした茶髪にエメラルドの如き美しい瞳をもつ少年が、ベッドの上に仰臥している。  衣類は何も身につけておらず、傷ひとつない柔らかな肌が露わになっている。  彼は魔導士であり冒険者であるカイラだ。  どことなく顔に残る幼さが、彼がまだ魔導士としても冒険者としてもひよっこである事を物語っている。  カイラは頬を紅潮させ、目に薄らと涙を湛えている。  今にも泣き出しそうな表情を浮かべながら、虚な目で天井を仰ぐ。 「はぁ……う、っ」  カッ、カッ……  カリカリ、カリ……  胸にある、隆起した桃色の蕾を左手で摘み刺激し続ける。  2つの蕾は肥大化しており、長時間弄んだ事が容易に想像できる。 「あ……きも、ち、い……」  甘い吐息が虚空に溶けて消えてゆく。  カイラは快感に身を委ねているものの、その表情はどこか切なそうだ。  カリカリ……  カリカリカリカリカリ……  そして彼の右手は下半身へ伸びている。 「はぁっ、はぁ……っ!」  甘い吐息を漏らしながら、手を懸命に動かしている。  1番疼いている部分を慰めたい。ただそれだけなのに……  ふとした事で装着させられた「貞操帯」と呼ばれる道具が邪魔をする。  カッカッカッカッ……  金属製の下着のような戒めに、カイラは悩まされ続けていた。  貞操帯というのは物理的に性行為を防ぐ事で、その者の純潔を保つ事を目的として装着させられる。  男性用女性用ともに性器を覆うよう設計されている為、性行為はおろか自分を慰める事すら不可能になる。それに加え、男性に関しては性器が下を向くよう金属製のチューブで固定される為、生理現象である勃起すら満足にできなくなるのだ。  この30日間……カイラはずっと貞操帯に雄としての器官を封印されている。  唯一露出している睾丸が、熟れた果実のように膨らんでいる。  排尿用としてチューブの先端部分に開けられた僅かな穴から、蜜が一滴とろりと落ちた。  既にカイラは我慢の限界を迎えている。  年頃の少年らしい肉欲を自らの手で発散させる事もできず、ただひたすら疼き続ける肉棒を貞操帯越しに慰める事しかできないのだ。  カッ、カッ……  カリカリ、カリカリ……  金属の貞操帯に爪を立てる音だけが虚しく響く。 「あぁ……うぅ、う……っ! 全部あの悪魔のせいだ……!」  突然窓が勢い良く開かれ、強く冷たい風が入り込む。  少年は上半身を起こし窓の方を睨んだ。  開かれた窓から1つの人影が入り込んで来るのが見えたからだ。 「……おいおい、そう睨んでくれるなって」  その者は生意気そうな笑みを浮かべる。  艶やかな黒髪に黒い瞳。イタズラっぽい笑みが中性的な顔立ちに実に似合う。  扇状的な黒い服に身を包み、頭から2本の角と、背にコウモリのような翼を生やしている。  美しく若い男のように見えるその悪魔は、人間から「インキュバス」などと呼ばれる夢魔である。 「ミキ……ッ!」 「おっ、オレの名前覚えててくれたの? うれしーなぁ♡」 「うるさい、うるさいっ!」  未だに貞操帯の中で欲望を滾らせながらも、カイラはミキに手のひらを向ける。  人をも殺しそうな鋭い視線を向けられた事にたじろぎ、ミキは両手を軽く上げた。 「おっと魔法をブッ放す気か? やめておきな。宿屋が燃えて他の冒険者が死んだら……オマエ、責任とれんの?」 「…………チッ!」  親の仇であるかのようにミキを睨みながらも手を下ろした。  いくら悪魔討伐の為とはいえ、人の命を巻き込む事は許される筈がない。 「良い子だ、カイラ」  額に冷や汗を浮かべながらミキは手を下ろした。 「何しに来た」  カイラは怒気を含んだ声で尋ねる。 「何しに……って、様子を見に来たんだよ。オマエ、呪いをかけてやってから30日経ったってのに、未だに一線超えようとしねぇからな」  ミキの視線は下……もっと言えば、カイラの下腹部に向いている。  カイラを悩ませてきた貞操帯……これは他でもない、ミキが装着させた物だ。 「オマエも随分と強情な奴だ。オマエのお仲間のヴェルトとかいう男に頼めば良いだけなんだぜ」 「……ヴェルトさんを、巻き込める訳ないだろ……っ」  欲情で潤んだエメラルドの瞳。だが、その奥では確固たる意思が燃えている。  仲間を決して巻き込ませまい。と…… 「『夢魔の呪い』をかけられてここまで耐えたのはオマエが初めてだ」  ミキは感心したような、呆れたような表情を浮かべながらカイラに近付く。  夢魔の呪い……  それはいくつかの呪いで構成されている。 ①欲情の呪い  常に肉欲が湧き、別の者の体を求めるようになる呪い。対象者が男であれば、精子が作られる量が通常の倍になる。 ②自慰封印の呪い  自分を慰める事ができなくなる呪い。性器に触れても絶頂に至る事も射精もできず、自らの欲望を掻き立てるのみ。 ③混沌の呪い  自分の周りにいる者の劣情を掻き立てる呪い。その効果は耐性が無い者ほどよく効く。  そして、これらの呪いと共に使用される「夢魔の貞操帯」。  排泄も可能で魔法の力で常に清潔に保たれる為、定期的に外す必要はない。  現在の技術では人間に破壊する事ができない。  つまり、隙が全くないのだ。  これらの呪いを掛けられた者は例外なく、肉欲に耐えきれず夢魔の手下となり、奴らの思い通りに行動するようになる。 「く、来るな……!」 「そう堅い事言うなって」  ミキはカイラを抱きしめ、唯一露出した性器である睾丸を、男らしい大きな手で包み込む。 「う……」 「こんなにパンパンになるまで放っておくなんて一種の自傷行為だぞ。ただでさえ、オレの呪いのせいで精液の生成量が倍になってる……つまり、60日間溜め続けているのと同じ状態なんだよ」  優しく愛撫され、カイラは甘い息を漏らす。 「ぎっしり詰まった精液、出したくて出したくて堪らねぇだろ? 気持ちいいだろうなぁ、ずっと貞操帯の中で半勃ち状態だったモノが貞操帯から解放されて……」  ミキの手が睾丸を離れ貞操帯のチューブ部分に移動する。 「30日ぶりに完全に勃つんだ。冷たい空気に触れるだけでイきそうになるかもなぁ」  チューブ部分をゆっくりと擦られ、カイラは声を上げた。  鼓動が早まり、体が汗ばむ。 「そしたら解放……射精の時間だ。もちろん呪いの効果でオマエがやっても無理だから、ヴェルトにやって貰うんだぜ?」 「ヴ、ヴェルトさんにっ、こんな事させる訳には……はんっ♡」 「アイツの大きい手でゆっくりと、ゆっくりと慰めて貰うんだ。その度に身が悶えるような快感が襲ってくるだろう」  ミキの手がチューブの先端部分に移動する。  肉棒がチューブ内いっぱいに膨らんでいる時は、先端部分だけなら触れる事ができるのだ。  そして今、カイラの欲望は最高に疼いている。 「だめっ、だめっ、そこは……っ!」  ミキは容赦無く肉棒の先端部分を指の腹で慰める。  それはまるで陰核に触れるような手つきだった。  上下に擦ったり、小さな円を描くように撫でたり、トントンとタッピングしたり……  フーッ♡ フーッ♡……とカイラは息を荒くする。 「ハハッ、女みてぇに触られて悦んでやがる! ……それでさ。最初ゆっくり擦られていたのが、快感が高まるのに合わせて速められる」  徐々にミキの手も早くなる。 「ほら、イきたくて堪らない、堪らない……! 30日貯めたザーメン全部吐き出したい……!」 「うぅ、う、う……!」  カイラは少しの刺激だけで達しようとしていた。  目から涙が溢れ、射精への期待でミキの指先を濡らす。 「ほら、イけ♡ 女みたいに扱かれて特濃ザーメン全部出せ♡」 「うぅ、うぅうぅう~ッ!」  いよいよ達する! ……と身を捩らせた途端。  ミキの手が離れた。 「あ……」 (あともう少しだったのに……!) 「……フッ、ハハハハハ!!」  ミキは悪魔らしい乾いた笑い声を上げる。 「本当にイけると思ってたのか? 断頭台を前にした死刑囚みてぇな顔しやがって……ハハッ、アハハハハ!」  カイラは貞操帯のチューブ部分を掴み、必死に動かす。 (イきたいイきたいイきたいイきたい!)  ガチャガチャガチャガチャガチャ……  金属が触れ合う音が響くだけで、せっかく高まった射精感が無くなってゆく。  登りかけていた精液が、無慈悲にも遡ってゆくような感覚。 「あ、あぁ、あ……っ!」  寸止めされてチューブの中でビク、ビクと跳ねる肉棒。  キンキンと疼き続け、今にも破裂しそうな睾丸。  ひたすらカイラは行き場のない肉欲を持て余す。  ミキは嘲笑する。 「大嫌いなオレに触られてるってのに足開きやがって……もっと触って欲しいってか?」  無意識に降伏するかのように情けない体勢を取っていたカイラは、涙をボロボロと溢す。 「ひどい……ひどい……! 僕が何をしたって言うんだよ……!」  ミキは子犬のように鳴くカイラを無視した。 「しかし互いに身が固いのな。オマエにかけた呪いのおかげでヴェルトとやらも、オマエに劣情を抱き始めてるはずなんだがなぁ……」  カイラはもはや獣同然である。  自分の下半身すら律する事ができず、ついにミキの目を憚らず自慰に耽り始めた。 「うぅ、しごきたいよぉ……」 「オマエが誰かと交わる事で発せられた精気をオレが貰う。別にオマエを殺そうとか、オマエの相手に害を成そうとか思っている訳じゃねぇ……ただオレは食事にありつきたいだけ。それなのに何故オマエは拒みつづける?」  顎に手を添えられ、無理やりミキに唇を奪われる。  媚薬同然の効果を持つミキの唾液が口内に入ってゆく。  その時だった。  扉が勢い良く開かれ、閃光の如き素早さで何者かがミキに斬りかかる。  ミキはそれを間一髪で躱した。 「君……カイラに何してるのさ」  と夢魔を睨む彼は……何度も会話に出てきた男ヴェルトだった。

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