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若きハルキオンの悩み
2階にある自室に戻りドアを閉じた途端、ハルキオンは力無く座り込む。
体が火照り続けている。
血行が良くなった為、右頬の傷跡が赤みを帯びる。
漏れる吐息は実に悩ましげで。
「いた……い」
という呟きが空に溶けた。
毎日のように血肉を断ち。
毎日のように悲鳴を聞き。
毎日のように罵声を浴び。
毎日のように自分を罰し。
直接的に死と関わる毎日を繰り返した結果、彼は性欲を失っていた。
ほとんど屹立する事の無かった肉棒が今、天を穿 つように勃ち上がっている。
「どう、し、て……っ」
体を引きずるようにベッドに移動し、ハルキオンは仕方なく疼く肉棒を握る。
(なんか、ビリビリする……まるで電気か何かが走っているような……ええと、私はどんな風に処理してたんだっけ? でも何とかしてすぐに吐き出さなければ……なんだか、これは、異常だ)
時折苦しそうに唸りながら、ハルキオンがぎこちない手つきで扱き続けていると。
「よぉ、苦しそうだな」
突然声をかけられたハルキオンは目を丸くしながら顔を上げた。
この世のものとは思えない程美しい人外が、妖艶な笑みを湛えてベッドの上に立ちハルキオンを見下ろしている。
「そう怖がるな。俺はお前を殺そうと思ってここに来たんじゃねぇ。死刑執行人兼拷問官ハルキオン・ブラッドムーン」
「だっ……だれ?」
咄嗟に出たのは子供のような言葉遣い。
「俺はミキ。お前を助けに来たんだよ」
ミキはしゃがんでハルキオンと目線を合わせた。
「お前、自分の心と体がギリギリなの、自分でも分かってるよな?」
「……なんとなくは」
「お前は心の傷を少しでも癒さなくちゃならない。その為には睡眠とか食事とかも大切だが……もうひとつ」
とミキはハルキオンの屹立を、まるで赤子の手を握るような力加減で握った。
「う……っ!?」
それだけでハルキオンは表情をだらしなく崩す。
「性欲の解消。これもとても大切だ。わかんだろ?」
使い込まれた形跡のない屹立を更に煽るように触ると、ビク、ビク。と物欲しそうに震える。
(はぁ~♡ ギリギリチンポおちょくるの楽しいわぁ~♡ 自己肯定感が満たされてく~♡)
心の中でハルキオンを嘲笑いながらミキは続ける。
「もちろん自分で気持ち良くなるのも良いが……1番良いのはセックスだな。セックス。心も体も繋がれてハッピハッピーって訳よ」
「っ、それは、ダメです!」
と先程まで快感を享受していたハルキオンが突如として拒絶し始める。
「あ?」
と冷たい声で訊き返されたハルキオンは、人外に恐怖を覚えながらも確固たる決意でこう続けた。
「私は……私は、私の代でこの家系を終わらせるつもりなんです……んっ、血塗られたっ、家系は……終わらせ、なければならない」
それでも滾る肉棒を触られ続けるので、ハルキオンは時折声を漏らす。
「チンポ擦られながらよく言うよ……子供を作りたくないからセックスしねーってか? 選択的童貞ってやつか?」
「でもよぉ?」とミキはハルキオンと共にベッドに倒れ込む。
そして、劣情をそそるよう獲物の耳元で囁くのだ。
「俺、インキュバスだから妊娠とかしないんだよねぇ。……気持ちいいぞぉ? インキュバスのケツ♡ 夜のおもちゃ代わりに夢魔をペットにする金持ちもいるくらいだ。俺の後輩に人間の男に飼われてる奴がいるんだけどさ? 毎日のようにご主人に突っ込んでもらえて幸せなんだとよ♡ お前も突っ込んでみねーか?」
「いや……で、す」
「俺も昔、そいつのケツを使わせてもらった事があるんだけどよぉ……すんげーよ? マジで。『離したくない♡ 離したくない♡』ってケツが語りかけてくるレベルで締め付けてくるの。俺、ソイツの先輩だぜ? 気持ち良くならない訳ないって」
ミキはハルキオンの耳に息を吹きかけた。
それだけでハルキオンはぶるりと震えて悶えた。
「なぁ? なぁ? シようぜ? 本当はシたくてシたくて堪らないんだろ? 童貞のハルキオン君?」
「わ、私は……っ、そもそも、貴方とするのが、嫌で、す」
ミキは顔を歪め舌打ちを打った。
「人殺し童貞チンポのクセにはっきり言ってくれるじゃん? ……いいぜ、こうなったら無理やりにでも吐き出させて精気搾り取ったらぁ!」
と痺れを切らした夢魔に掴みかかられた。
それに抵抗する術を今持っていないハルキオンは、一縷 の望みにかけてベッドの側の電気スタンドへ手を伸ばした。
(ここまで、順調か)
ハルキオンを組み敷きながらミキは心の中で呟く。
(後は下の階にいるアイツが気付いてコッチにくれば、ちょっとは面白い事になりそうだ)
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