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4日目

 朝日に照らされ、ヴェルトは目を覚ます。 (……あれ? 僕いつの間にか寝ちゃってたのか)  ふと隣を見ると、寝巻き姿のカイラが寝息を立てていた。 (あれ、なんで僕カイラ君と寝てたんだ!?)  ベッドから半身起こしたヴェルトは昨日の記憶を辿る。  モンスター討伐に行って。  ガゼリオと酒を飲みに行って。  ………… (ダメだ、断片的な記憶しか思い出せない。まさか僕、カイラ君に手とか出してないよな!?)  思い悩んでいる内に、カイラが目を覚ました。 「あ……おはよーございます」  寝ぼけた声で笑うカイラがなんだか愛おしく、ヴェルトは「おはよう」と返してカイラの頭をそっと撫でた。 「カイラ君」  ヴェルトが寝起きのしゃがれた声で訊ねる。 「僕、昨日何かおかしな事とかしてた?」 「……はぁ?」  昨日の事をもちろん鮮明に覚えているカイラは怒気のこもった声を出す。  自慰を見た上、更に続行させた。  その間「ヘコヘコして可愛い」だの「ちっちゃい」だの散々煽り、挙句の果てには下半身に「ティニー」という不名誉な名前を付け笑ったのだ。 「なんで何も覚えてないんですか!」 「えっとね……ティニーの事は覚えてる」 「なんでそこだけ覚えてんですか!」  じ、じゃあと狼狽えながらカイラは別の事を訊ねる。 「昨日、僕に『好き』って言った事も覚えてないんですか」 「…………」  ヴェルトは笑顔を引き攣らせたまま何も答えない。 (確かについ言っちゃったな、そんな事)  カイラの事を好いているのは真実だ。  本人にも理由はよく分かっていないらしいが、ヴェルトはひと回りも下の少年に恋心を抱き始めている。 『めちゃくちゃにしてやりたい。自分の事を忘れられなくなるように。全てを忘れさせて、その空白を「ヴェルト」という最低な男の性格や声や体で埋めてやる』  ……そう思ってはいるものの。  純情なカイラの将来の事を考えると、簡単に告白してはいけないのだとヴェルトは思っている。  自分といると不幸になるから。 「ヴェルトさん」  呆れ声を出しながらカイラもベッドから上半身を起こす。  ヴェルトが無言のまま何か考え込んでいたので、カイラはヴェルトが全て忘れてしまったと判断したのだ。 「都合の良い頭してますね」  ヴェルトは思わず鼻で笑った。 「よく言われるよ」 (もういいや、全部忘れた事にしよう。その方がカイラ君のためだから)  とヘラヘラ笑うヴェルトにカイラは呆れ返った。 (結構本気にした僕がバカみたいだ)  次第に目の前の痴呆男に苛立ちが募り、カイラは奴に少し仕返しする事を決意した。 「ん? カイラ君?」  カイラはヴェルトの上に跨って彼を見下ろす。  「リードを握られるのが嫌い」と言っていたヴェルトのリードを握ってやろうと思ったのだ。 「遊びたいのかい? 朝から大胆だねカイラ君」  カイラは手始めにヴェルトと軽く唇を重ねた。 「流石に4日も我慢してるの辛いのかな?」  減らず口を叩くヴェルトに、カイラは何も答えない。  次に何をしようかと一考し、自分自身が触られて気持ち良い部分を責めようと、手をヴェルトの胸へ伸ばす。 「あのねぇ、カイラ君」  とヴェルトは諭すような口調で呼びかけた後、カイラの胸を触り返してやった。 「んっ♡」  それだけでカイラは表情を崩し悶える。 「ここ触られて制御できなくなるくらい気持ち良くなっちゃうの、カイラ君ぐらいなもんだよ?」  鮮やかとも言える手つきでヴェルトはたちまちカイラを組み敷いた。  そのまま下ろした銀髪がさらりと揺れる。 「君はただ僕の下で可愛い声出してれば良いんだよ。僕の事責めようなんて100年早い」  それはつまり一生無理という意味。 「さ、僕はシャワー浴びてくるから、その間に着替えときなよ」  とヴェルトはすんなりとカイラを解放する。  顔を真っ赤にしたカイラは、今はヴェルトに逆らう気を失った。  そしてホテルのクローゼットを開き、何の躊躇いも無くいつもの緑のローブを手に取る。 「ん、待ってカイラ君」  クローゼットの中身を|一瞥《いちべつ》したヴェルトはカイラに声をかける。 「もしかしてそのローブしか持ってないの」 「いえ? これと同じやつ10着持ってますよ?」  苦笑を浮かべるヴェルトを見て、カイラは「なにか?」と小首を傾げた。 「カイラ君」 「はい?」 「服買いに行こっか」

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